軽やかに失速

□スキューギア
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 街の名は『アンカロック』。
 人工のリゾート地として基礎から街を造っている為、どの通りも同じ雰囲気で、一度道を見失うと慣れた者でも混乱してしまう。
 観光向けに整備された自然と、大都市に引けを取らない娯楽性と機能性を備えた街は珍しく、気候に激しい変化が見られない土地という事も手伝って、開発中にも関わらず一年を通して来訪者が絶えない。
 異国の地であれば大小関わらずトラブルが起こるのは自然な事で、入れ替わり立ち替わる各国からの来訪者に対応する為、要所毎に旅行者向けの窓口が設けられていた。それらは一様に、国旗や、相談内容の書かれた幟で入口を雑然とさせている。
 自国の旗を探す人々の中、飛び抜けて高い赤銅色の頭が左右を見回していた。
 警備員らしい服装の青年が、旅行者に見えない身形に気付き、声を掛ける。
「どちらへ?」
「……あ、」
 この街には旅行者と、開発に関わる労働者、あとは観光産業に関わる者しかいない。今日は国の定める休息日で、未開発区域に従事する労働者は街には少ない。警備員らしい青年は、長身をタイトなスーツに包む相手を、企業従事者と見定めたようだ。
「アンカロックは初めてですか? この賑わいようだと、地図も役に立たなかったでしょう」
「あぁ、……ええ、そうですね。でも良かった、未開発区域に行きたくて。通行証書が使えるゲートが分からなくて困っていたところです」
 突然声を掛けられた青年は戸惑う様子を見せたが、すぐに営業慣れした対応を見せた。親切で呼び止められたのだと理解したようだ。
 勿論、親切のつもりで呼び止めた相手は、自分と歳が近く見える外見に、更に親しみを乗せて接し始めた。



 「ぶどう?」
 自分は成り立ての警備員だと身分証を見せた青年は、頭一つ分高い相手を見上げ、疑問を口にした。赤銅色の髪の青年は肩を竦め、軽く「違う」と身振りで訴える。
「いや、グレープって名前なんだ。名付け親の国じゃ人名らしい」
 この名前のせいで自己紹介で手間取るよ、とさして気にとめない様子のグレープに対して、若い警備員は失礼な事をしたと少々慌てた。
「ああ、そうなんだ、出身は?」
「中央、って言っても端の方だけど。リテラの一番田舎な所。森に囲まれてて夜は真っ暗だな」
「リテラって言ったら資産家ばっかり住んでるトコじゃないか」
 もしかして金持ち?有名人と知り合えたりする?と羨ましがる警備員に、それはイメージだから、とやんわり否定するグレープは、これも毎度の反応だなと、心中で苦笑した。




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《軽やかに失速》
第一章 スキューギア
(1) 侵入





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