無彩色のヴェーロ
□靴は磨いておきましょう
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霊園を囲む防風林を抜けると、潮風が絶え間なく襲う細道が続く。
さっきよりも強くなった風に髪を乱すエルマンノが、「風が強い」のような事を言い、続けてセシリアに何か問いかけた。横からの風に耳を塞がれたセシリアは、先を行くエルマンノに「なあに!」と聞き返す。その声をかき消す勢いで吹く風にローブが暴れ、セシリアは足元をとられた。
「大丈夫?」
風を遮るようにエルマンノの腕が伸びてきて、顔に掛かるセシリアの髪に手櫛を入れる。
「ここは16から酒飲めるんだっけ?」
「あ、うん、でも、私は……飲んだ事ない」
階段を作るために切り崩した山肌とエルマンノに挟まれて、風からは避難できた。傍に立つと、エルマンノはまるで壁のようだ。小さい頃から仰ぎ見ていたからそれが当たり前だったが、成長したセシリアは平均よりも少し高いくらいなのに、まだ見上げなくてはいけない。
改めて、大きな人だと思った。セシリアは、自分が余計な事をしたのではないかと危惧する。
霊園での二人の関係は、彼が友人を悼むのに必要な要素だったのかもしれない。それを、自分が変えてしまった。そんな事はないだろうか。
「なんか、イメージ通りだな」
「そ、そう? ……かな」
(良い意味? 悪い意味? ……どっちでも、ない?)
気後れして本心が聞けず、セシリアは強風に耐えるのに精一杯だという演技をしてやり過ごすことにした。
エルマンノが不自然な自分の様子に気づかないように、と祈りながら。
町まで降りると、狭い路肩に小型車が停まっていた。細い坂道の多い町の、こんな奥まで来るなんて珍しい、とセシリアは思った。
「車で来たんだ」
「エルマンノさんの車?」
(ちょっと小さいんじゃ……)
セシリアの頭に、背を丸めてハンドルに噛じりつくエルマンノの姿が浮かぶ。
「サイズ合わないって思っただろ」
間髪入れずに図星を突かれ、セシリアは慌てて首を振った。
「顔に出し過ぎ」
エルマンノが上体を傾けてまじまじと覗き込みながら言うと、セシリアの顔は「本当?」と問いかける形に変わる。
「出てる、出てる。わかりやすいな〜」
からかう言い様に、セシリアは少しばかり不機嫌になる。同時に、そんなに分かりやすいのかと少なからずショックを受けた。
そんなセシリアに気づいているのかどうか、エルマンノは一笑いしてから離れる。
「ちょっと着替えてくるな。さすがに暑い」
車はどうするのだろう、と疑問に思うセシリアを置いて、エルマンノが車の窓をノックするとドアが開いた。中に人がいたようだ。
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《無彩色のヴェーロ》
第一章 靴は磨いておきましょう
(1) 霊園にて
PLOT:[名]@(小説や芝居の)筋,仕組みA陰謀,悪だくみ[他]@企む,企てるA設計する
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