情報屋「濶ヤ」

□喫茶にて
1ページ/1ページ



「依頼の話だったな、場所を移そう。」

最早、人間の食す域を遥かに超えた赤黒いもの(拉麺)を濶ヤは汗一つかくことなくぺろりと平らげたのち、そう云った。

確かにこんな寂れた拉麺屋で話す内容ではないと、頬を染めたオルコットとは対照的に青ざめた表情のフィッツジェラルドは頷いた。

濶ヤを先頭に路地裏を進む。

暫くすると、こじんまりとはしているが洒落た喫茶(カフェ)の前で彼は足を止めた。

ベルが鳴る扉を引き、どうぞと二人を店内へと導く所作は宛ら執事のようでもある。

店内に入るといらっしゃいませ、と声がした。
低い壮年の男の声だ。

フィッツジェラルドはぐるりと店内を見回す。
アンティーク家具で統一された天井には、煌々とシャンデリアが輝いている。

濶ヤに云われる儘、二人は四人掛けのテーブルに腰かけた。
彼は壮年の男に何時もの三つ、と声を掛けると二人の向かい側に腰かけ、それで、とフィッツジェラルドはに話しを促した。

虎人(リカント)の少年は知っているか?」

「嗚呼、闇市で70億の値が付いた少年の事だろう。」

「そうだ。俺たちは彼の少年を手に入れるべく70億の値を付け、ポートマフィアを焚きつけた。」

「だが、捕まえられなかった。」

「嗚呼、そうだ。」

「其れで、俺に何をさせたい。」

濶ヤは試すようにニヤリと笑って問うた。

「10憶だ。10億でお前を買う。」

フィッツジェラルドの言葉に一瞬、きょとんとした顔をした濶ヤは、堰を切ったように笑い出した。

「ふふっ、そうか、其処まで高額な値段を付けられたのは初めてだ。良いだろう、其の依頼、受けよう。」

其処へ丁度、お待たせしました、と声がした。
店主だろう男が、三人の前へ一つずつティーカップを置く。
ハーブの良い香りは鼻を掠めた。

ハーブティーを嗜む濶ヤの姿は、二人に一枚の絵画を見ているような錯覚を与える程美しく、宗教画にも勝る神秘性を放っていた。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ