龍神様の夢の跡
□9 魑魅魍魎の主
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金属同士の擦れる音に目を見開くとそこには先程の妖怪と刀を交わす奴良くんの姿があった。
『奴良くん……?』
私の呼び掛けには反応せず、奴良くんは倒れているつららちゃんを抱えて冷たい声で言ったのだ。
「この女は……三代目の………僕の下僕だぞ」
そう告げた奴良君の表情はいつも見る温厚な彼の面影も無いほど恐ろしいものだった。
『…三代目………』
そう呟いた私に、奴良くんはこっちを見たあと、申し訳なさそうな顔をする。
奴「夕凪さん……僕………」
震える声で真実を告げようとする奴良くんの口に手を当てて制止した。
『……いいよ。わかってた。
____奴良くんは妖怪なんだよね?』
私の問いかけに奴良くんはゆっくり、だけどはっきりと頷く。
そして刀の先を相手の妖怪へと向けた。
雪「若っ!お逃げ下さい!」
奴「バカいうな………お前、大怪我してるぞ」
「そんな弱い側近に守ってもらわなきゃーならない妖怪の総大将なんてよ……。
そんな奴、不必要だと………思わんか?」
相手の妖怪も奴良くんへと刀を向けた。
まだ幼さの残る顔だが、その目はとても冷酷で年相応の愛嬌が全く見られない。
だが、私は確かに見たんだ。
彼がつららちゃんに目を移した時、彼の目に一瞬だけ困惑が浮かんだのを。
もしかしたら、つららちゃんを傷つけたくなかったんじゃないだろうか………?
ホントは怪我をしたつららちゃんに一番に駆け寄ってあげたかったのかな………?
そんな風に考えてみる。
いや………でも彼、確実に命狙ってたし…………実は照れ隠し的な!?
でも、そんな命がけの照れ隠しは勘弁してほしいよね…………。
やがて音のない森で激しい刀の撃ち合いが始まった。
私は怪我をしたつららちゃんの元に駆け寄って、止血を試みる。
『……………と思ったけど止血の心得なんて全く無いし、私今世紀最大に焦りすぎて上手く手が動かない……!!』←
先程の妖怪と対峙したときの恐怖がまだ残っているようで、手足はガタガタいってまるで言うことを聞いてくれない。
とりあえず保健で習った程度の応急措置をやってみた。
「この牛頭丸の"爪"が、
"ふぬけ"にかわせるか!!」
『!?』
牛頭丸と言ったその妖怪は背中から大きな爪を出して奴良くんに向けた。
あの爪………さっき木に刺さってたもげたつめってあの子の爪……だったの!?
あまりの迫力に思わず目を瞑る。
『(奴良くんっ!!!)』
やがて森に再び静寂が訪れた。
一体どっちが勝ったのだろうか…………。
恐る恐る目を開けるとそこに立っていたのは………
『……奴良くん…………なんだよね?』
妖怪と化した奴良くんの姿だった。