龍神様の夢の跡
□8 牛と雪と龍
2ページ/2ページ
『つららちゃんいこうっ!』
奴良君の背中を不安げに見つめるつららちゃん……。
も、もしや!つららちゃん………奴良君の事が………
その時だ。
「てめぇが側近か」
『!!?』
突如上から冷たい声が聞こえた後で何かが降ってきた。
ギリギリでそれを交わして落ちてきたものを凝視する。
『……えっ?人……?』
なに、この山は鬼が出るだけじゃなくて人が降ってくるの?←
怖いね………
『…つららちゃん、大丈夫………?』
隣にいたつららちゃんに声をかけるも返事がない。
『……つららちゃん!?つららちゃんだいじょ…………うぶ……』
そこに立っていたのはつららちゃんではない。
いつかの白い着物を着た妖怪。
「バカな事およしなさい。私を誰だと思っているの?」
その空間には冷たい風が吹きわたり、一気に体温が奪われていく。
「なるほど、雪女、ね…」
先程降ってきた人………だと思っていたがこの流れだときっと妖怪か………。
その妖怪は自らの持つ刀の先が凍っているのを見てそう告げた。
「刀を納めなさい。今だったら貴方の事、咎めないから。リクオ様の命令で人を追っているの。ほっといてくれる?」
『……リクオ様って………』
私はこのときほど後悔したことはないのかもしれない。
私はここでリクオ君が妖怪じゃないことを証明しに来た。その筈が、結果的にそれが決定付ける形になり、そのうえつららちゃんという存在までもが妖怪だということを自らの目で見てしまった。
つららちゃん。もとい雪女は私を一瞥すると、小さくため息をついた。
「くくく…」
「!? 何がおかしい。何を笑っているの!?貴方…誰に手を出しているか分かってないよーね!!私の主は…」
「ガタガタ煩いよ、女」
サクッ。
その静かな音は静寂の森に響く。
雪「くっ!」
『__っ!?』
相手の妖怪が刀を雪女の足に刺したのだ。
白かった足袋に真っ赤な"何か"が広がっていく。
これはなに……?
これは…………
『………血っ……?』
その単語を口にした瞬間、ガンっ!と頭を鈍器で殴られるような衝撃に襲われる。
『……ううっ!』
頭が………いたいっ………!
頭を過るのは真っ赤に染まった大きな塊。
ぺちゃんこに潰れた"なにか"だ………。
あれは………なんだっけ?
『………っ!』
嫌な"何か"を振り払うように頭を降った。
今は………今は思い出してはいけない。
前を見て。
誰かにそう言われた訳ではないが、何故かそう思う。
「偉そうにするな!!問題児の側近のくせに。本家だからって命令してんじゃねーぞ!!」
「牛鬼組をなめるなよ!!」
刀を思いっきり振りかぶる妖怪。
雪女は技を出そうとしているのか口の前で手を構える。
雪「呪いのふぶ…………っ!」
しかし、足に負ったダメージが相当なものだったのか出せずに失敗。
雪「若は……………私が守らなくてはいけないのに………」
「死ね」
『っ!やめて!!』
気がつけば妖怪と雪女の前に飛び出した。
雪「!?夕凪さん!!?」
見てられなくて思わず飛び出したのはいいが、あいにく私に振りかぶられた刃を止める手段はない。
『っ!』
覚悟を決めて目をつぶり、来る痛みに備える。
が、いつまでたってもそれは来ない。
ゆっくりと目を開けると私のつけていたペンダントが光のバリアのようなものを張って刀を防いでいた。
『えっ………?』
「!?っ!バカなっ!」
無理矢理押し切ろうとしているのか妖怪は刀にさらに力をかけるが全くもって効いていない。
雪「そ、それは………?」
『わ、わかんない……!急に光出したから……!』
「っ!お前、何者だっ!」
本家の奴か。と睨み付けてくる妖怪に首を横に振る。
『私は人間だよ。ただの人間』
「なっ!?に、人間……?」
妖怪は一度だけ目を見開くと、その次の瞬間には思わず震え上がってしまうほど恐ろしい表情へと変わった。
「人間に………人間ごときに、俺が負けるはずがねぇ!!」
『ひいっっ!』
足がガタガタと震えている。
でも背中には怪我を負ったつららちゃんが……
雪「夕凪さん!逃げてっ!」
『ダメっ!それは絶対にダメっ!だって…つららちゃんは私の友達だもん!』
雪「!!」
だからっ!と続ける私に更に不幸が襲いかかる。なんと光のバリアが消えてしまったのだ。
『!!………うそっ………』
「これでしまいだぁ!!」
ここまでなの………?
せっかく生き返ったのにこれでオシマイ………?
これで……………
カキィィィンッ!
『響き渡るのは金属の擦れる音』
『生を諦めた私の希望の音だ』