世界の引鉄〜World Trigger〜
□母が残したこの「希望」と
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『うわ。さっむ!!』
12月19日。
中学最後の期末テスト。
三学期は中間期末をまとめて「学年末」というので事実上、これが終わればテストはあと1回になる。
英語は出来るけど、国語は出来ない。
数学は得意だけど、理科は大嫌い。
社会は好きだけど、解けない。
英語は解ける、それに好き。
数学も解ける、でも嫌い。
そんな私はテストがあまり好きじゃない。
万年遅刻魔・・・否、遅刻ギリギリセーフで無遅刻無欠席を保っている私は、ここで皆勤賞を逃すわけにはいかない、と最低限の物だけ持って、最後にイヤホンをして家を出た。
これが日常。
でも、今日は思っていたよりも寒かった。
防寒を何もしないで家を出たので、首や袖から冷たい風が通る。
今日は少し余裕があったので一度戻ろうかとも思ったけど、そしたら間違いなく遅刻すると思ったので防寒具は諦め、仕方なく少し早足に学校までの道を歩いた。
この時間はまだ何人か登校者が見られる。
チャイムと同時に教室に入った時なんかは本当に誰もいない。いたとしても平気で遅刻する奴らだ。
その中に見知った後姿を見て、走る速度を上げる。
聞いていた音楽を止めて、その人物の肩を軽くたたく。
自分より10cmほど高い所にある目がこちらに向く。
『おはよう、秀次。』
彼は驚いたような顔をして、そしてふと微笑んだ。
「英里、おはよう。今日は早いんだな。」
『今日は秀次が遅いだけでしょ?優等生君はいつも早いもんね。』
「優等生じゃない。」
『寝坊でもした?』
「してない。」
『じゃあ、忘れ物?』
「してない。」
『えー、じゃあ・・・仕事?』
「・・・・。」
『お。当たりだ。お疲れ様ー、ボーダー様。』
「別に・・・疲れてない。」
『嘘。眠そうだよ?』
「眠くない。」
『倒れて保健室とか・・・嫌だよ?』
「俺も嫌だ。」
『あはは。』
そんな会話をしながら学校に行く。
あと数分で着くというところで、一際強い風が吹いた。
『さっむ!!』
「!!・・・なんで防寒してないんだ。」
『だって。遅刻しそうだったから?』
「はぁ・・・。」
この幼馴染はいつもそう。
一番に私の心配をする。
小さい時だって、私が転んだのに秀次が泣く。
私がやったのに秀次が怒られる。
私が誉められたら一番、喜んだ。
「お前は親か。」と思ったこともあったけど、その優しさが嬉しくて、それ以上に秀次と同じ感情を出した。
今も私が寒いのに心底心配そうにこっちを見ている。
あのころよりも落ち着いていて、冷静になって、どこか冷徹になった彼もそこは変わらないらしい。
しかし、あの豊かな表情はどこへ行ったのだろうか。
それが残っているのは私だけらしい。
『秀次?』
「・・・・。」
『そんなに寒くないよ?』
「嘘つけ。」
『嘘じゃないって!!』
反論虚しく、信用してもらえなかった。
それもそのはず、こんな寒い日にマフラーも手袋もしていない人なんていない。
すると秀次は何を思ったか、自分のマフラーと取りだした。
『え、ちょ、ちょ!!何マフラー取ってんの?!寒さ共有しなくていいんだけど!!』
「違う!」
秀次はマフラーを取り終わると、ちょうど顔が入りそうなくらいの輪を作った。
『え?行動の意味が分からないわ!・・・とうとう壊れたか。しばらくボーダーの仕事は・・・』
「〜〜〜!!うるさい!」
私がそこまで言うと、気に障ったのか「うるさい!」という声と共にさっき作っていたわっかが降ってきた。
『わっ・・・ぷ!!』
それはちょうど私の「マフラー」になっていた。
『は?え?ちょ、秀次!!』
「それしてろ。返すのは明日で良い。」
『え。だめ。無理。』
「してろ。」
『無理!』
「・・・返してもしないからな。」
『はぁ?!・・・じゃあ、今日は一緒に帰る。』
「!!」
『そしたらすぐ返せるしね!』
「・・・ああ。」
『じゃあ、HR終わったら・・・』
そっち行くから、と私が言おうとしたら先に言われてまた口論になる。
それが楽しくて、少し笑いあってから教室の前で別れた。