世界の引鉄〜World Trigger〜

□怖くて逃げて
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准からの電話を受けて家を出た。

それはいいんだけど・・・。



『ボーダー本部って、どこー?!!』



分からないんじゃない。

知ってるけど、忘れただけ。

決して方向音痴なんかじゃない。


・・・嘘です。

ホウコウオンチです。

よく言われます。


家から見える大きな建物・・・ボーダー本部を目指して早30分。

もう着いていいはずなのに、一向に着く気配がない。

しかも、何故か辺りを見回してもそれらしき建物はなく。

あんなに大きいんだから分かるだろー、と適当に歩いたのがいけなかったのか。

完全に迷子です。

最初、准に電話しようかとも思ったが、絶対に心配して迎えに来る=目立つ、で却下。

次に、秀次に電話しようと考えて、でも秀次にはいつも迷惑かけてるし、胃に穴開いたりしたらどうしよう・・・。とか考えて却下。

次に、出水に電話しようと考えて、でもあいつは性格上ネチネチとからかってきそうなので却下。

最後、自称実力派エリートさんに頼もうと思ったが、電話番号知らないやと断念。

忍田さんという手もあったが、それはそれで恥ずかしいやら申し訳ないやらで後々大変そうなので止めておいた。

一応地図で頑張ろうともしたが、まず現在地が分からないので意味なし。

さー、本当に困ったぞ。

GPS機能で探してもらおうか。

それも最強に恥ずかしい。

ああ、もう最初からナビゲートしてもらえば良かったなんて、今日2度目の後悔。

ボーダーに入ってからというもののろくなことがあったもんじゃない。

今回はボーダーのせいではないのだが。

本気でどうしよう、と自販機の横で唸っていると目の前に人影が。

ん?と顔をあげるとそこには私より少し背の高い男の子っぽい人が。

『ええと・・・』

確かこの人、昨日の模擬戦見てた人じゃない?

なんて疑わしい記憶が蘇る。

本当にそうなのか、それとも窮地に陥った私の脳が勝手にそうさせてるのか。

前者であってくれ。

頼むっ!!

そんな私の心中など露知らず、彼は尋ねた。

「お前、吉河英里だな?こんな所で何をしている。」

『え、えっと・・・』

「嵐山隊は午後から任務と聞いているが?」

ビンゴだ!!

やった!

そんな心情とは裏腹に私が出したのはなんとも情けない声だった。

この人、無表情すぎて怖いんですけど。

『あー、そう、なんですけど・・・』

「?」

『えっと・・・、道間違えたっていうか、本部見えないジャンっていうか、ここどこだか分かんないっていうかぁ・・・・』

どんどん小さい声になって行く私をきょとんとした顔で見ていた彼。

「・・・っふ。」

彼は少しの沈黙の後、笑いだした。

「そうか。なら俺が案内してやる。」

『ホントですか?!やった!!あ、えっと知ってると思いますが吉河英里です。よろしくお願いします。』

「ああ。俺は風間蒼也だ。」

風間さんは綺麗に笑ったあと、こっちだ。と歩きだした。

ああ、全然怖くなんかなかった。



『それにしても、なんで本部が見えなくなるんだろ・・・?』

「それはお前の後ろの建物の更に向こうにあるからだ。」

『え。あー・・・そうだったんだー・・・。』

「方向音痴とは見かけによらないな。」

『ぅえ?!い、いや・・でも!!やっぱ方向はあってたんですよね!だったら方向音痴って言わないんじゃ・・・』

「迷ったら、それは方向音痴の証拠だ。」

『・・・ですよねー、はい。』

「っふ。」

『笑わないで下さいよ・・・。』

「本当に見かけによらないな・・・。」

『あ、それからこのこと誰にも言わないで下さい。』

「なぜだ?」

『口止めし忘れて後悔した前科があるので。私と風間さんとの秘密、ということで。』

「・・・みんな知ってるのではないか?」

『本部に行く途中迷子になって風間さんに助けられたってことがバレなきゃいいんです。』

「なるほど。分かった。」

『やった!!今度お茶でもしましょうね、風間さん!』

「ああ、そうだな。」


(昨日までの私とは違う)(変わらないものがあるからそこにいられたんだ)

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