A・A小説

□不思議なやつ
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不思議なやつ                                        
              



春うらら。外には、一面の桜が満開に咲き、まるでぼくらの進学を祝っているかのように思えてしまう。
まぁ、現実はそうでもなくて。
桜はぼくらのことを祝っているわけでもなく、嘲笑っているわけでもなく。
ただ、春だから。自分がやらなくちゃいけない仕事をしにきただけだから。
花を咲かすという仕事を果たしにきただけだから。   ただ、それだけのこと。
そんな仕事熱心な(?)桜に見とれているぼくなんていなかった。
母さんといたのなら、一緒に「綺麗だね」なんて言っていたと思う。
いや、母さんと一緒じゃなくても言ってたかも。

こいつがいなければ・・・・・・・



「なぁ、あゆむ〜。漫才やろうや〜」
「しない。絶対に、しない。名前を伸ばすな」

この男。秋本貴史がいなければ。

「まぁ、ひどい!!あゆちゃんは、いつから、人の頼みをそんな簡単に、断れるようになったの!」
「秋本、きもい。言葉使い、おかしくなってる」
「お母さんは、そんな子に育てた覚えは、ありません!!!」
「お前に育てられるくらいなら、犬に育ててもらいます」
「ああ・・・、犬、かわええよなぁ・・・」

なんて会話にもだんだん慣れてきた。けど、こいつは相変わらず鬱陶しい。
勝手にしゃべり始めて、勝手に笑って、勝手に触ってくる。

そんなことを思っていたら、秋本がぼくの肩に手を乗っけてきた。


「やめろ。秋本、触るな」
「ええ!!いやや!離れとうないぃぃぃぃ」
「は・な・れ・ろ!暑い!暑苦しいぞ、秋山」
「秋本です」

まったくこいつは・・・。

「あらあら、なんや騒がしい思たら、ロミジュリのお二人やないの」

手をひらひらと振って、陽気な少女が駆けてきた。
森口だ。 その隣にはいかにも頭が良さそうな少年。 高原がいた。

「朝から、お熱いねぇ!」
「おはよ、瀬田。毎日、大変やなぁ」
「そう思うなら、助けてくれ」
「なんや歩!おれと居るのが、嫌なんか!!?」
「ああ、だから早く、離れてくれ。秋山」
「秋本です。 あゆむ〜、頼むからそんな冷たいこと言わんといてくれ」
「伸ばすな」


ああ、鬱陶しい。本当の本当に鬱陶しい。
夏でもないのに、汗が出てきそう。そのくらい、くっついてくる。
もうずっとこのままだったら、どうしよう。
ぼくは、窒息して死んでしまうのだろうか・・・。
だとしたら・・・・・いやだなぁ。
何が嫌って、秋本の腕の中で死んでいくのが嫌だ。


ぎゅううううううううう


秋本の腕が、より一層強くぼくを抱きしめる。
やばい。ほんとに、窒息しちゃうかも。

「あ・・、あき・・もと」
「!!ど、どないしたんや!!?歩!」
「く・・・・、苦しい」
「あゆむ〜!!死なんといてくれ〜〜!おれを一人に、せんといて〜〜〜〜」
「・・・・・っ、伸ばすな」



そのときだった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





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