踊る大捜査線
□素直になれたら
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今日見てしまった。
署に青島君を訪ねてきた、とても綺麗な女性。
その応対をする青島君の態度がとても嬉しそうで、ほんのり頬なんか赤らめちゃってさ。
こりゃ好きな人なんだ……って思った。
総務課や交通課の女の子なんか彼とあたしの仲を誤解してるから、あたしの方チラチラ見ちゃってさ。ホント気分悪い。
そう言えばメールを見てニヤニヤしてたことがあった。『どうしたの?』と聞くと、すごく焦ってたけど、あれって今思えばあの女の人のからのメールだったのね。
……単なるヤキモチだってわかってるけど、そもそも気を持たせるようなことする青島君が悪いんじゃない。
どうせあたしなんてただの同僚だしね。
この傷があるから、青島君だって変に気にしちゃってんじゃない?
あたしの不注意だったんだから、気にする必要なんてないのに。
ああもう、青島君にそういう人がいるんだったら、これ以上親しくなんて出来ないわよね。
そんな人がいるくせにさっきの試すようなセリフはなんなのよ? 信じらんない。冗談じゃない。
なんで人が決心したときに限ってああやって追いかけてくるのよ。
普段は飄々として掴み所なくてさ、そのくせ気をもたせるようなことして、もしかして……って勘違いしてたの、あたしだけじゃない。
ホントムカつく。もういい。
同じ職場だし、変によそよそしく出来ないけど、ちょっとずつ距離を開けることくらい出来るわよ。
どうせ彼だってこの関係が居心地がいいとか思ってんのよ。だからこんなに長く一緒にいたのに何もなかった。
それはあたしも同じだけど、心のどこかでこの関係を打破したいって思ってた。
でも結局何もなくて、今までダラダラきたわけだけど……。
正直疲れた。こんな関係。
どちらかにそういう相手が出来ればすぐに壊れるような曖昧な関係なんだ。
これ以上のドツボにはまる前に離れた方が楽なのよ(て、とっくにはまってる気もするけど……)。
逃げてるって言われても仕方がないけど、子供じゃないから突っ走れない。
逃げって思われても、安全な方に逃げるのも大人の手段だと思う。
それだけ複雑なんだ。大人の世界は。
普段のあたしじゃこんなこと絶対に言わないけど、こと青島君のこととなると変わる。
それだけ大事に思ってたから、仕方がないんだ……。
ごめんね雪乃さん……何かと気を揉んでくれたけど、もうあたし耐えれそうにないや……。
どうせ青島君と何かあると思えなかったから、このまま刑事続けて一生独身で生きていってもいいかな? とか思ってたけど、やっぱ彼の隣で笑ってる他の女の人を傍で見るのは無理かも……。
親が勧めるお見合い、受けてもいいかなぁ……。
また少しだけ振り向く。
青島君が先程いた場所にまだいる。
遠目にわかる。その顔は先程の呆然とした顔ではなくて怒っているような、それでいて悲しそうな顔。
なんでそんな顔するのよ。意味わかんないわよ。
好きでもない女に冷たくされたくらいでそんな顔するような子供なの?
あたしはその顔を振り切るように改札を通って、丁度ホームに入ってきた電車に飛び乗った。
後編に続く
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