2周年記念小説

□水色のエプロン
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「いらっしゃいませ、分からないことがあったら、お気軽に声掛けて下さいね」

「あ、はい…」



それが俺たちの初めての出会いだった。

3ヶ月前、家から一分の所に花屋が出来た。

朝その花屋の前を通ると花の良い香りが充満していて、とてもいい気分で出社したのを覚えている。

会社から帰宅する時もその花屋はまだ開いていて、中はどうなっているんだろう、と興味本位に店内に足を踏み入れた時。

俺に声を掛けてきたのは、水色のエプロンを付けた銀髪の男だった。

その男はにこりと微笑んでから、また視線を花に戻す。

俺はその笑顔に見惚れてしまって、しばらく動けなかった。

少ししてからハッとし、一通り店内を見て、目についた黄色いガーベラを二本買った。

銀髪の店員はそれに赤いリボンを掛けてくれて、ありがとうございました、とまた微笑む。

俺はドキドキと高鳴る胸に困惑しつつ、家に帰った。

家に帰ってからもその店員の笑顔が頭から離れない。

この胸の高鳴りは、男相手に感じてはいけないもののような気が…

そうは思いながらも、買ってきた二本のガーベラを眺めてはニヤついてしまう。

顔ばっか見て、名札見るの忘れたな。

明日も花屋に行ったら可笑しいだろうか。

会社に花を持って行く体で…

その日、俺はそんなことをグルグル考えながら、黄色いガーベラをずっと眺めていた。



「こんばんは」

「土方さん、お仕事お疲れ様です」

「坂田さんも、お疲れ様です」



そして、今。

俺はこうして会社帰りに毎日花屋に寄り、水色のエプロンをする坂田さんと店の隅にあるお洒落なテーブルでお茶する仲にまで昇格した。

結局、花は好きだけど名前がよく分からなくて…と坂田さんに言ってみたところ、じゃあ毎日一つずつ教えましょうか、と言ってくれたのだ。

最初は十分くらい立ち話していたのが三十分になり、いつからかお茶を飲みながら花やその日あったことを喋るようになっていた。



「土方さんの顔見たら、疲れなんてすぐ取れちゃいました」

「またそう言うことを…」

「今日はアップルティーなんてどうですか?」

「はい、お願いします」



よく話すようになって知ったのは、坂田さんはとても口が上手いということ。

普通男相手に言わないだろ、ということも、サラッと言ってしまう。

勿論その言葉は俺にとって凄く嬉しいものだ。

きっと他の人にも言っているんだろうけど…こんな風にお茶するのは俺だけだろうし、そう思うだけで幸せな気分になってしまうので、そこは目を瞑ろう。



「はい、どうぞ」

「ありがとうございます。いい匂いですね」



テーブルの上に置かれたマグカップからは、落ち着くような良い香りがした。

この店が一番繁盛するのは午前中から午後にかけてらしい。

夕飯時のこの時間はお客さんがやって来ないことがほとんどだ。

坂田さんは俺の向かいに腰掛けて自分用のマグカップを口元に持っていき、ふと俺を見つめる。

何だろう?と思い首を傾げると、坂田さんはごく真面目な顔で言った。



「土方さんがここで働いてくれたら良いのになぁ」

「…え?」



自分の都合の良いように聞き間違えたんじゃないか、と思った。

今の坂田さんの言葉は、多分俺の妄想で…



「花が好きな人が一緒に居てくれたらすごく楽しいじゃないですか」



…どうやら現実だったらしい。

坂田さんの言葉を理解して、じわじわと顔が熱くなってくる。

きっと坂田さんは俺を気に入ってくれているんだろう。

勿論知り合い、もしくは友達としてだ。

それでもやっぱり嬉しくて、けれど喜んでいることを坂田さんに悟られたくなくて。



「あ、でも俺、花の名前とか全然分かんないし…」



少しどもってしまったが、俺は坂田さんにそう返した。



「はい、でも、最近普通の人より覚えましたよね」



にこりと笑う坂田さんに、動揺する。



「…坂田さんのおかげです」



坂田さんと接点が持ちたくて、本当はあまり興味のなかった花の名前を結構な種類を覚えた。

今ではなんとなくだけど、どの季節にどの花が咲くかも覚えてきた。

道端に咲いている花にも、他の花屋に置いてある花にも目がいくようになって、心癒されている自分が居る。

花を見て、坂田さんの笑顔を思い出して…



「働かなくても、ここに来てくれるだけで良いんです。俺、毎日土方さんが来てくれるの楽しみで楽しみで」

「お!…俺も、楽しみです」



坂田さんの言葉に上手く反応出来ず、思ったよりも大きい声が出てしまった。

ううん、と咳払いをして、答える。

どうして今日はそんな嬉しいことばかり言ってくれるんだろう。



「へへ、良かった」



…どうしてそんなに、嬉しそうにしてくれるんだろう。

あぁ、俺の心は舞い上がってばかりだ。

きっと顔にも出ている。

隠しきれないほど嬉しいなんて…



「あ、の…」

「はい?」

「これからもここに通って、花の名前も育て方も沢山覚えたら…雇ってくれますか…?」

「…勿論!」



坂田さんの笑顔とその返事に、俺の心臓は普段どう動いていたかを忘れてしまったようだ。

ドキドキと高鳴る胸。

これからも毎日坂田さんのもとに通って、沢山花について覚えよう。

空いた時間に自学習も始めて。

そして坂田さんに認めてもらえたら…俺も、水色のエプロンをつけたいな。





〜〜〜〜〜

銀さんがお花屋さんしてたらめっちゃ可愛いな…。

みくちゃんのみお持ち帰り可です。
リクエストありがとう!





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