2周年記念小説

□その呼び方は
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「ただいまー」

「おかえりアル!銀ちゃん!」



夜8時、神楽を置いてコンビニに出掛けた。
エロ本をちょっとだけ立ち読みして、ジャンプといちごミルク、神楽用の酢昆布を買って万事屋に帰る。

その間三十分だ。



「邪魔してるぜェ」



パタパタと走り寄ってきた神楽を受け止めると、俺が万事屋を出るまで存在していなかった邪悪な声が聞こえた。



「…ん?高杉!?何で居んの!?」



その声の主は俺の幼なじみで元仲間、実は恋人同士の高杉のもの。

高杉はソファーに偉そうに座りながら、俺に向かって手を上げた。



「銀ちゃん、こいつお饅頭くれたネ!案外良い奴ヨ!」

「餌付けされてるしっ」



腕の中で、神楽がそう言う。

紅桜の件であんなに激しく戦ったハズなのに、饅頭でコロリと落ちたのか…

俺ァそんな軽い女に育てた覚えはないんですけど?



「今回は一週間くらい居れる、が」

「…分かった。神楽、悪ぃんだけど一週間新八の道場に行っててくれるか?」



少ししゅんとしたような声が聞こえて、俺もコロリと落ちてしまう。

ごめん、神楽、そりゃこんな俺が育てたら軽くなるのも無理ないわ。

腕の中に居た神楽と顔の位置を合わせるようにしゃがむと、神楽はむぅっと唇を尖らせた。



「…」

「ちゃんと埋め合わせはするから、な?」

「…ならワタシ、遊園地が良いアル」

「分かった、遊園地な。来週行こう」

「キャッホー!銀ちゃん大好き!」



俺がそう言って神楽を宥めると、神楽はぎゅうと俺に抱きついてくる。

そうして、頬にキスしてきた。

神楽は俺を父親のように思ってくれているらしく、最近特に俺と一緒に居たがるのだ。

一週間も放っておかれるのは相当気にくわないんだろう。

遊園地に行く金、何とか稼がなきゃな…



「じゃあ気をつけてな」

「ウン!定春、行くヨ!」

「ワンっ!」



ポン、と頭を撫でると、神楽は満足したように笑って玄関を飛び出した。

定春にもいつもより良い餌買ってやるかな、と思っていると、背後から声が聞こえる。



「…良いなァ遊園地」



ちっとも羨ましそうには聞こえないが、一応俺と出掛けたいと思ってくれてるんだろうか。



「馬鹿、お前は駄目だ。真選組にバレたらどうすんだよ」



でもこいつは指名手配されていて、俺はこいつを追う真選組と何かと縁があって。



「そんときゃそん時だろ?」

「だーめ。俺が居るところでそんなことはさせない」

「ふぅん」



すぐに殺す殺さないの話を持ち出す高杉を宥め、面白くなさそうに口を尖らせた高杉の隣に座る。

よしよし、と頭を撫でると、高杉は俺の手にすり寄ってきた。



「なに、今回はご機嫌斜めなの?」

「…別に。チャイナ娘に随分甘いんだなァと思ってよ」



すり寄ってきたのに、ふいっと顔を逸らす高杉に苦笑する。

こいつは構って欲しくて問題を起こす所があるから。

俺は毎回、心の中で少し苦笑しながら、こいつを止めに行っている。



「ヤキモチ?」

「お前さァ、俺がヤキモチ妬くの好きだとか思ってねェか?」

「あれ、違うの?」

「…死ね」



相変わらずむすっとしている高杉と言い合っていると、高杉がもぞりと動き始めた。



「死んだら泣くくせに」

「馬鹿じゃ、ねェの?」

「言動が一致してないよ」

「…消毒」



消毒と言いながら、高杉は俺の膝の上に向かい合うように座って、俺の頬にキスをする。



「あぁ、なるほど」



高杉がキスしてきた場所は、さっき神楽にキスされた所だ。



「他は?何処かにキスされたか?」



俺が高杉の背中に手を回してゆっくりさすると、むすっとしていた高杉の表情が段々緩んでくる。

早く、もっとへにゃへにゃに表情を緩めれば良い。

いつもの悪そうな笑みも嫌いじゃないが、俺
は俺の前でしかしない、可愛い笑い方が好きなんだ。



「うーん…口?」

「…ホントか?」

「うんうん」

「嘘臭ェなァ…もうちっとマシな嘘付けよ」

「とか言って唇ペロペロ舐めてるくせに。まったく可愛いな晋助は」



首を傾げながらも、楽しそうに俺の唇を舐める高杉の髪を撫でる。

晋助って名前で呼ぶのは、こうして二人の雰囲気が甘ったるくなってから。



「…あ、駄目だ、我慢できね」

「え?」



突然高杉の動きが止まり、ぎゅうと抱きつかれた。



「名前、もっと呼べ。んで、体中ドロドロに溶けるくらい触れよ、銀時」

「なに、急にスイッチ入ったの」

「良いから、早く…」



名前で呼ばれたのがそんなに嬉しかったんだろうか。

確かに、俺は高杉のことをあまり名前で呼ばない。

呼ばないって言うか、呼べる状況に中々ならないって方が正しいけど。

俺は抱きついてくる高杉の体をそっと離し、薄い唇にキスをした。



「…じゃあ晋助、自分で着物はだけさせて?帯は取って、脱いじゃ駄目だよ」

「ん…」



これからスることへの期待で瞳を潤ませる高杉に、自然と口角が上がる。

俺だって、高杉と二人きりになったらすぐにでも名前を呼びたい。

名前を呼んで、高杉が近くにいることを感じたい。

小さい頃から一緒に居たんだ、お互いの考えてることは大体分かるし、大体同じ。



「他の男に触らせてないか、点検したげる」

「むしろお前のが怪しいと思うがなァ」

「ふぅん?そういうこと言う?…存分に確かめさせてあげるよ」

「…願ったり叶ったりだ」



にやっと笑いながらも、嬉しそうな高杉の頭を引き寄せる。

一週間一緒に居れるなんて、中々ない。

この一週間で高杉を目一杯充電させて貰おう。

その代わり、俺のことも目一杯充電させてあげよう。

離れていても心はひとつだよ、なんて、少しクサ過ぎるかな。





〜〜〜〜〜

裏の一歩手前で申し訳ないです…。

雷さんのみお持ち帰り可です。
リクエストありがとうございました!





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