2周年記念小説

□話を聞いて
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「おや、旦那じゃねェですかィ」



総悟が声を掛けた男は、驚いたような顔をした。



「あ?…あ、総一郎くん、多串、くん」

「…昼間っから女と酒飲んでるたァ良いご身分だな、あぁ?」



吉原で攘夷浪士が集会を開いている店がある、と言う情報を得て、吉原中の店を見回りしている最中だ。

最後の一軒、と入った店の部屋を片っ端から開けていくと、そこには全く持って居るとは思っていなかった自分の恋人が女と酒を飲んでいた。

どうしてこんな所に居るんだ、なんで女と酒を飲んでいるんだ、俺のことが嫌いになったのか。

そう聞きたいのに、人前だからそんなことも言えず、俺は銀時に悪態をつく。



「なんじゃお前ら、吉原での喧嘩は御法度だぞ」

「月詠、ちょっと黙ってろ」

「じゃが銀時」



銀時にツクヨと呼ばれた女は、銀時を庇うように俺に言った。

そして銀時はツクヨを庇うように、女に言った。



「っ行くぞ、総悟」



それが酷く悲しくて、俺は銀時と女に背を向ける。

言い訳はしないのか。

お前が一番だと、言ってはくれないのか。

…分かっているんだ、銀時が俺との関係を周りに隠したいなんて。

だって俺は男で、真選組の副長。

そんな奴と付き合っているなんて、知られたいわけがないだろう。



「旦那、今度は俺も誘って下せェ」




総悟が銀時にそう言い、歩きだそうとした時だった。



「えーと、うん、沖田くん、サボって良いよ」

「へ?」

「ちょっと多串くんに用思い出したんだ。借りるよ」

「っテメェ離せ!」



俺は銀時に腕を掴まれ、歩き出すことが出来ない。

腕を振り払おうにも、そのつど力が込められて痛いだけだ。

ここから早く立ち去りたいのに。

銀時を睨むと、銀時は呆れたような顔をして、はぁとため息を吐いた。

そのため息にびくりと体が強張る。

俺が大人しくなったのを確認して、銀時はツクヨに言った。



「月詠も、また出直して来るわ。ちょっと部屋借りて良いか」

「…あ、あぁ…?」



急に席を立った銀時を不思議そうにしながらもツクヨは頷く。

…そんなに、信頼し合っているのか。

そんなに深い仲なのか。

銀時に手を引かれながら、俺の心には暗い影が落ちるばかりだった。



〜〜〜〜〜



重い空気が流れる。

銀時から顔をそらし、絶対に目を合わせない。

銀時は俺をじっと見つめているか、それをずっと無視していた。

だって、俺が悪いんじゃない。

銀時が俺の知らない所で、女と飲んでるのが悪いんだろ?

だから、俺は、



「なぁ、十四郎」



銀時が口を開く。



「何も聞くことなんてねェし、話すこともない」

「いや、誤解なんだって」

「…」

「この間吉原の事件に関わったって言ったろ?その礼にってさ、月詠が」

「っ」



ツクヨと言う単語に、俺は耳を塞いだ。

銀時は女の名を、優しく呼ぶ、気がする。

だから聞きたくなかった。

俺以外の名を優しく呼ぶ銀時なんて、見たくもないし知りたくない。



「おい、十四郎!聞けって、おい!」

「聞かねェ!」

「良いから聞け!」



銀時が大声で怒鳴るから、耳を塞いでも聞こえてしまう。

聞きたくないのに…。



「嫌だ!そうやって別れ話もするんだろ!?嫌だ、絶対ェ聞かねェ!」



銀時は普段真面目に話したりしない。

いつも優しく、面白おかしく俺を楽しませてくれた。

だから銀時が真面目に話すと、怖い。

いつか別れ話を切り出されるんじゃないかと、いつも不安に思っていた。



「十四郎?」

「嫌、だ!絶対ェ別れない!別れ話なんてしたら、お前のこと、殺して俺も死ぬっ!」

「へ、え?」

「っく、嫌だ、からな…っ!ひっく、う」



自分がこんなに独占欲を持つ人間だと、銀時と付き合って初めて知った。

お前のことを殺して俺も死ぬなんて、そんな馬鹿居ねェよ…と思っていたのに。

でも、今の俺は、そう思う。

浮気をされて、銀時が俺から離れていってしまうくらいなら、銀時を殺して、俺も…

自分で言って涙が止まらず、俺は嗚咽を抑えることが出来なかった。

銀時はそんな俺を見て、何故だか苦笑を漏らす。



「…はは、何かもう、面白くなってきた」

「ぐずっ、ひっ、う」

「馬鹿だな十四郎。俺がお前と別れたいなんて、思うわけないだろ」



ぎゅうう、と力一杯銀時に抱き締められた。



「っ」

「好き、好きだ、大好き」

「や、やぁ…!」



今は抱き締められるのが怖くて、銀時を押し返そうとするが、泣いているせいか力が入らない。

耳元で、銀時の優しい声がする。



「やじゃないだろ。良いから抱きしめられてろ」

「っふ、ぅ、や…」

「好きだよ、十四郎」



胸を押してもびくともしない銀時。

相変わらずその太い腕は、俺を捕らえて離そうとはしなかった。

だんだん、俺の体温と銀時の体温が同じになってくる。

悲しくて仕方ないはずなのに、銀時の体温に慣れた俺の体は、次第に力を抜いて銀時に体重を預け始めた。



「ひっく、ぎ、ん」

「そうそう、ぎゅってするの好きだろ?」

「ぐず…うん…」

「ホント可愛いな」



俺は銀時の胸にすり寄り、腕を背中に回す。

それを銀時に咎められることはなく、もう一度隙間がないように抱き寄せられた。



「ぎん、とき…?」

「ん?」

「…すき」

「俺も好きだよ」



ちゅ、と頬にキスされる。

…やっぱり、俺は銀時が居ないと駄目だ。

今は銀時の言葉を信じることしか出来ない。



「…浮気、してたの?」



そう聞いて、先ほどの銀時とツクヨが仲むつまじく飲んでいる所を思い出してしまい、胸が痛くなる。

銀時は大きくため息を吐いて、俺と額を合わせた。



「違うってば。吉原の事件のお礼。十四郎に言ったはずだけど、覚えてないの?」



…俺に、言った…?



『吉原の事件で、お礼したいって言われてるんだ。その内吉原に飲みに行くと思うけど、浮気じゃないからね?』



銀時に言われて記憶を辿ってみると、確かに、結構前に言われていた気がする。



「…あ」

「忘れてたんでしょ」

「…ごめんなさい…」



原因解明してしまえば自分の行動が物凄く恥ずかしくて、俺は俯いた。

浮気じゃないのに浮気だと決めつけて、銀時を疑ったことも。

浮気をしたらお前を殺して俺も死ぬ、と言ったことも。

大泣きをしたことも。

…あぁもう、穴があったら入りたい…!



「まぁ良いよ、誤解もとけたし。目赤いから、もう少し休ませて貰おうか?」

「…ん」



それでも銀時は、そんな俺を優しく撫でて目元にキスしてくれた。

じっと銀時を見つめる。

銀時は優しく微笑んで息を吸った。



「月詠ー!部屋延長!人払い頼む!」

「!」

「誰も部屋に入らん!礼じゃ、じっくり使うてくれ!」



大声で何を言い合ってるんだ!と恥ずかしさで顔が赤くなる。

って言うかあの女、俺らのこと、知って…!



「と言うわけで十四郎くん、銀さんとイチャイチャする?」

「っ、っ…する!」



聞きたいことは沢山あったけど、俺は甘い欲望には勝てなかった。

これからも浮気なんてされないように、目一杯俺で気持ちよくなって貰わなければ。





〜〜〜〜〜

(おまけ)

ツクヨはその後、丁度良いときを見計らって酒を持ってきてくれたり、飯を持ってきてくれたり、銀時が貸してくれと頼んだ女物の着物を持ってきてくれた。

銀時はツクヨと飲んでいる時、俺のことをノロケていたらしい。

「女って意外と男同士に抵抗ないよ」

…だそうだ。

…俺はもう、ツクヨに頭が上がらねェよ…。





〜〜〜〜〜

やっぱり、銀さんが浮気する可能性が一番高いのは月詠かお妙さんかなーと思って(笑)

BANRI様のみお持ち帰り可です。
リクエストありがとうございました!





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