2周年記念小説

□会社にて
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「伊東、課長昇進おめでとう」

「ありがとうございます」

「お前ならもっと上に行けるだろ。頑張れよ」

「はい」



入社五年目、僕は課長に就任した。



「伊東の奴、課長だってよ〜」

「頭の良い奴は違うね」

「なぁ坂田、飯食い行かね?」

「俺伊東と行くわー」

「なんだよ〜…お前マジで良い奴な」

「そういうんじゃねぇよ」



日本で一番偏差値の高いと言われる大学を出て、この会社に採用された。

日本人なら誰もが知っている、そして入社を憧れる会社。

そんな会社に入社した僕の同期は五人。

入社して五年、僕はその中の一人を除いて未だに馴染めない。



「…坂田、くん」

「伊東。飯食おうぜ、腹減った」



唯一僕が馴染めた一人と言うのが、この人、坂田銀時だ。

銀髪に、瞳は赤がかっている。

毎日僕が作ったお弁当を一緒に食べる仲。

…いや、それ以上の仲なのだけれど。



「…今日は、お弁当を忘れてきてしまって」

「嘘つき。ほら、早く弁当持って屋上行こう」

「さ、坂田、くん」

「今日のおかず何?あぁ、聞いたらダメか、楽しみが減るな」

「坂田、くん」

「なぁに」



僕を置いてどんどん屋上への廊下を歩いていく坂田くんを呼び止める。



「別に一緒に食べてくれなくても、構わないよ…みんなに、悪く言われる」



いつまでも馴染めない僕を、坂田くんを除いた同期の人たちはよく思っていない。

その上僕だけ昇進して、陰で何を言われているか…

そんな僕と一緒に居て、坂田くんが悪く言われるのは嫌だった。



「悪く言われるって…良い歳した大人だぜ?そんなん気にならない」

「でも」

「俺には、伊東が俺と食いたいか食いたくないかが重要なの。どっち?」



なのに坂田くんはそう言って笑う。

入社したころ、別に誰と仲良くやっていこうとは思っていなかった。

仕事が出来ればそれで良い。

馴れ合いなんて必要ないし、むしろそんなものは邪魔だと思っていた。



「…た、食べたい」



なのに、坂田くんは一向に話に乗らない僕に何度も何度も声を掛けてくれて。

僕が今まで触れたことのない友達の優しさや頼もしさや…恋心を教えてくれた。

今では失うことなんて考えられない、僕の大切な人。

坂田くんに捨てられたら、僕は今まで死に物狂いで頑張って勉強し、みんなが憧れる会社に入り、出世街道まっしぐらな今の人生を簡単に捨て、坂田くんを追うだろう。



「よし、じゃあ早く食べよう。腹減りすぎて計算ミスったからね、俺」

「そ、それは…俺のせいなのかい?」



僕の答えを聞いて満足したのか、坂田くんがニっと笑った。



「そうだよ、伊東のせい。それに昨日お泊まりで寝不足だしなー」

「っ!それは明らかに坂田くんが悪いだろうっ」



ここは会社の廊下だ。

かなりきわどい会話をしている自覚はある。

でも昨夜のことを思い出したように笑う坂田くんに、反論しなければ。

仕掛けてきたのは、坂田くんなんだから。



『なぁ鴨、疲れてる?』

『ん?いや、大丈夫だよ?』

『シたい。鴨見てたら我慢出来なくなった』

『っ、ぎ、銀時くん…』



反論したは良いものの昨夜求められたときのことを思い出してしまい、僕はぶわっと顔が赤くなるのを感じた。



「まぁ確かに。でも伊東も『もっと』って言ってたよ?」

「っ、っ…い、言ったけど」

「お互いがっついちまったもんなー」



僕が赤くなったのを微笑ましそうに見つめる坂田くんから、恥ずかしくて視線を逸らす。



「それに伊東の家心地いいんだもん、居座っちゃって」

「…そうかな」



大体、二人で会う所と言えば僕の家だ。

坂田くんがいつ来ても良いように、毎日掃除している。

坂田くんと付き合い始めて半年、坂田くんの私物が段々増えていくのが凄く嬉しくて。

スウェット、スーツ、ワイシャツ、靴下、下着、歯ブラシ、ゲーム機。

それらを見る度に頬が緩んでしまう。

だから坂田くんに心地いいと言って貰えて、安心した。



「うん、住みたい」

「っ!え、と、あの」

「ん?」

「あの、あの」

「なぁに?」



だから住みたいと言って貰えて、嬉しい。

優しく微笑む坂田くんに伝えたいことがある。

付き合ってからずっと、言いたかった。



「す、す、住んでも、支障はないよっ」



だってうちのマンションは4LDKで部屋も余ってるし、だから坂田くんの物を置いても全然余裕だし、今だって週の半分は僕の家に来てたし…っ。

そう懸命に伝えると、坂田くんは吹き出した。



「…ぷっ、あはは、誘い方的には0点だなぁ。寂しいから一緒に住んで、だったら良かったのに」



あ…そうか…伝えることに精一杯で、坂田くんが気に入るような言い回しが出来ていなかった…。

僕は男だし可愛い部分なんて皆無だけど、坂田くんには少しでも可愛いと思って欲しいのに。

もっと素直に気持ちを伝えられたら良いのに。

僕が反省の意味も込めてしゅんと俯くと、次の瞬間暖かい手でぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。



「…なんて、嘘うそ。鴨らしくて可愛かった。引っ越しの準備、手伝ってね?」

「っ!」



もー、すぐ本気にするんだから。



二人きりのときだけの呼び方で僕を呼ぶ坂田くんは苦笑している。

でも、どこか楽しそうだ。

坂田くんも、僕と一緒に居たいと思ってくれていたの…?

そう考えただけで胸が熱くなってくる。



「ちなみに、寝室は一緒だからな。別々に寝るとかあり得ねぇけど、オッケ?」

「う、うんっ」



ここは会社の廊下だから、と坂田くんの袖を掴みたい衝動をぐっとこらえて。

家に帰ったら頑張って、自分から坂田くんにキスしよう。

そう心に決めた。





〜〜〜〜〜

昇進制度はかなり想像…
控えめ鴨萌えです^^あと銀土のときより強引な銀時^^

かなちゃんのみお持ち帰り可です。
リクエストありがとっ!





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