2周年記念小説

□すり寄る姿はまるで
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『…十四郎?』

「もしもし、銀時?どうした、何かあったか?」

『…今から屯所行って良い?』



仕事中、銀時から突然の電話。

電話越しの銀時の声はここ最近聞いた記憶が無いくらい、暗い。

落ち込んでいるのか…?



「…あぁ、分かった。門番に言っておく」

『うん、じゃあ、行くね』



仕事中だが、今日は書類整理だけで屯所を出る用事は無い。

それに最近はテロも起こっていないから書類も総悟が壊した店の扉だなんだの始末書だけだ、すぐに終わる。

ピ、と携帯を切って、俺はどうやって銀時を慰めてやろうかと頭をひねった。

銀時が落ち込んだりするのは珍しい。

夢にうなされているときは頭を撫でてやったり抱き締める腕に力を込めると落ち着きを取り戻すが…

取りあえず話を聞く前に甘いものでも出してやるか。

俺は台所へ甘味を、門番に銀時が来たら俺の部屋へ通すように伝えるため腰を上げた。



〜〜〜〜〜



「十四郎…」

「…どうした?」



それから10分後、俺の部屋に現れた銀時はなぜか笠を被っていた。

銀時が笠を被ること自体珍しいのに、屯所に上がっても笠を取らないなんて。

顔がギリギリ見えるくらい深く笠を被った銀時は、はぁ、と大きく息をついた。



「笑わない?」

「え?」

「引かない?」

「へ?」



一体何の確認だ?

そう尋ねようと思ったとき、銀時はおもむろに笠を取る。



「あの、ね」

「…!」



笠を取った銀時の姿を見て、俺は言葉を失ってしまう。

だって、なんだ、それ。

くるくるフワフワな銀色の髪はいつも通り。

その上にぴくぴくと動く…もふもふの耳。

…耳?



「朝起きたら生えてたの…!なんで俺!十四郎じゃなくて、俺!」



銀時は悔しそうにそう言いながら床に膝をついた。

その拍子に着流しに隠れていたらしい、これまたもふもふな尻尾が顔を出す。



「そこ問題じゃねェだろ!…また変なことに首突っ込んだんじゃなかろうな」



落ち込んでいたんじゃなくて良かった…と思うと同時に、心配になる。

こいつはいつも興味の無い振りをしながら色んなところに首を突っ込んで、怪我をしたりするから。

今回もまた何か事件に巻き込まれたんじゃないかと。



「違うよぉー…こんなん生えるなんて微塵も思わなかった…」



俺が訝しげな視線を向けると、銀時は眉を下げた情けない顔でそう言った。

犬と言うよりは、猫のそれ。

銀時の気持ちを表すように、耳も尻尾もへたりと垂れ下がっている。



「いつ戻るんだろうな」

「分かんない」



仕方ないから、事件に首を突っ込んでいないのは信じてやろう。

こんなにあっさりと許す気になったのは、それよりも気になることが出来てしまったからだ。

俺は相変わらずへたり込んでいる銀時の目の前にしゃがむ。



「…アリだな」

「へ?」

「なぁ、耳とかしっぽ、触って良いか?」



もう、見た瞬間から釘付けだったのだ、実は。

俺は銀時のフワフワな銀髪が大好きで、その上にもふもふな耳なんて…

美味しすぎる。



「…十四郎、随分楽しそうじゃない?」

「いいや?…触るぞ」



今度は銀時が俺のことを訝しげに見つめるが、そんなのはお構いなし。

にやり、と笑みを浮かべて銀時についた耳に手を伸ばした。



「やっぱ楽しそうだ!喜んでるでしょ!やっぱ男だなお前も!」

「そりゃあ好きな奴が猫耳と尻尾付けてりゃ悪い気はしねェな…うぅ、もふもふ」



ぎゃーぎゃー文句を言う銀時についた耳は想像通り柔らかく、手触りが物凄く良い。



「あんま触んな」

「嫌だ」

「ちょ、十四郎、待て、待て待て!」

「んだよ」



顔をしかめる銀時の言葉を無視して耳を触りながら尻尾に手を伸ばすと、その二つの手がパシリとはたき落とされた。

今までそんなことされたことがなかったからムッとするやら悲しいやら、複雑な表情で銀時を見つめる。

すると銀時も複雑な顔をして、それからひとつため息を吐いた。



「ちょっと、駄目」

「…」

「あのね…」

「!」



そっと耳打ちされた、耳と尻尾を触られるのが嫌な理由。



「分かった?もう終わりだよ?」



困ったように笑う銀時に、俺はぷつりと理性の糸が切れる音を聞いた。



「っ、っ、やだ」

「ぎゃ、十四郎!?」



だってそんなの、尚更触りたくなるだろ…っ!



〜〜〜〜〜



「まったく、お前ホントに…この状況楽しみすぎ」

「だって可愛すぎるだろ。無理無理」



銀時が耳や尻尾に触られたくない理由は「気持ち良くなっちゃうから」だった。

そんなのは、俺を煽る理由にしかならなくて。

銀時を押し倒し耳と尻尾の肌触りを存分に堪能してから、銀時に押し倒された。

そうして銀時との濃厚で甘い時間を過ごし、今こうして怒られている。



「俺に関して我慢が足りない」

「我慢出来ねェから最初からしねェだけ」

「…お前の方が可愛すぎるわ」

「んン」



銀時のお叱りはいつも甘い。

怒られていたはずなのに、ちゅ、と軽くキスをされた。

それが嬉しくてへにゃりと頬を緩ませれば、銀時は呆れたように笑って俺にデコピンを食らわせる。



「つーか他になってるやつ居ないのかな…」

「山崎に聞いてみるか?」



俺がそう言うと銀時はそうだね、と頷いた。



〜〜〜〜〜



「…だん、な」

「驚きすぎ驚きすぎ」



銀時についた耳と尻尾を見た山崎は、これでもかと言うほど目を見開く。



「他にこうなってる奴、見たか?」



銀時を見つめたまま動かなくなった山崎を睨みつつそう尋ねると、山崎ははっとして俺の方を向いた。



「い、いえ…でも笠被ってる人はいつもより多かった気が…調べてみます」

「あぁ、頼んだ」

「それにしても…」

「ん?」

「だ、旦那、似合いますね」

「はぁ?」



うっすらと頬を染め、照れたようにちらちらと銀時を見る山崎。

銀時は山崎にそう言われて首を傾げる。



「なんていうか、可愛いってより色気があるっていうか…」



銀時は自覚がないのだ。

どんなに自分が可愛いのか、分かっていない。

山崎がうっすらと頬を染めるのは仕方のないことだ。

だって本当に可愛いんだから。

…だが。



「山崎」

「はい?」

「死ね」

「えぇぇ!?」



銀時に猫耳と尻尾が超絶似合うのは俺だけが知っていれば良いこと。

格好良くて可愛い銀時は、俺だけのもの。

ギロリと山崎を睨むと、山崎は「すいませんでしたァア!」と叫んで俺の部屋を後にした。



〜〜〜〜〜



山崎が調査に向かってからすぐ、俺は渋々書類整理をし始める。

銀時が居るのにもったいねェ…と思うが、銀時に「俺大人しくしてるから頑張って!」なんて笑顔で言われてしまったら頑張るしかない。

書類整理を始めて三十分くらい経っただろうか、大人しく俺の後ろでゴロゴロしていた銀時がこてんと俺の太ももに頭を乗せた。



「十四郎…」

「ん、どうした?」



まったく、大人しくしてるって言ったのに…

なんて銀時が俺にすり寄ってきてくれたのが嬉しい気持ちを隠すように、自分に言い訳する。



「凄い眠い…」

「いつもじゃねェのか」



太ももに乗せられた銀時の頭を優しく撫でてやると、銀時は猫がゴロゴロ鳴くように気持ちよさそうに目を細めた。



「今日はいつもより眠いんだってばー…」

「ちょ、おい、銀時?」

「おやすみ…」

「あ、こら」

「ー…」

「…はぁ、ったく」



相当眠かった上に頭を撫でられて気持ち良かったのか、銀時はそのまま俺に膝枕されながら眠ってしまう。

まったく、本当に。

いつもは俺をこれでもかと甘やかしてくれる銀時が、俺にこうして甘えてくれるのが嬉しくて仕方ない。

そんなちょっとした優越感に浸りつつ。

俺は銀時を起こさないように左手でそっと銀時の髪を撫でながら、目の前の書類に視線を戻した。





〜〜〜〜〜

場面転換が多いですが…わたしは十四郎に猫耳が生えるより、銀さんに猫耳が生えて、そんな銀さんに堪らなく萌えている十四郎(とその周り)の方が好きだったりします(笑)
なので大変楽しく書かせて頂きました^^


クラークさまのみお持ち帰り可です。
リクエストありがとうございました!




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