2周年記念小説

□恋の謹慎処分くん
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「総悟」

「はい?」



屯所の廊下で名前を呼ばれる。

名前で自分のことを呼ぶのは二人しか居ない。

振り返ると、そこに立っていたのはやっぱり土方さんだった。



「あのな、今日、坂田がな」

「喧嘩せず喋れやしたかィ?」

「あいつパチンコで当たったとか言って、機嫌良かったんだ。で、土方くんって」

「へェ」



土方さんの日課。

俺の日課。

歌舞伎町で万事屋を営んでいる坂田銀時について語ること。

…語るって言っちゃあ語弊が生じるか。

土方さんが語る旦那の話を聞いてあげる、ってとこだ。



「しかもな、ライター、くれた」

「良かったじゃねェですかィ。宝物にしねェと」

「今日から使う」

「なくさねェように」



いつも仏頂面で怒ってばかりの土方さんも、旦那の話をするときだけはへにゃりと頬を緩ませる。

土方さんは旦那に片想い中。

でも土方さんは究極のツンデレ、その上シャイで、旦那を目の前にするとふざけんな死ねだ大騒ぎしてしまう。

だから旦那はこれっぽっちも土方さんのことなんて好きじゃねェだろうし、土方さんもそれに気付いてて。

また素直になれなくて喧嘩を売るの繰り返し。

俺の前では、こんなに旦那への気持ちを素直に言うことが出来るのに。

まったく、世話の焼ける兄貴分でィ。

そろそろ土方さんが旦那に片想いし始めて半年経つし、今のままじゃ事態は進まないだろう。

しょうがねェな、一肌脱いでやるか。

俺はへにゃへにゃと旦那の話をする土方さんに



「明日はもっと喋れると良いですねィ」



と言い残し、自室へ戻った。



〜〜〜〜〜



次の日。



「だーんなァー」

「な、何なに、急に」



ガラリ、と呼び鈴も鳴らさずに万事屋の戸を開ける。

案の定鍵は開いていて、ソファーに座っていた旦那が玄関にすっ飛んできた。



「いえちょっとご相談が」

「依頼?」

「上手くいったら、好きなだけパフェ奢ってあげやす」

「聞いてあげよう」



旦那は始め俺の顔を見て怪訝な表情を浮かべていたが、パフェの単語を出すとすぐさま部屋に案内してくれた。

好きなだけパフェなんて、安い安い。

どうせそのパフェ代も後々土方さんに集る気満々だしな。



「今日から土方さんに会ったら、土方くんとか土方って呼んでやって下せェ。あと喧嘩は絶対に買わないように」



ソファーに腰掛け、依頼内容を伝える。



「…へ?」

「あとはー」

「待て待て待て、何で?沖田くんって多串くんのこと嫌いじゃなかった?つか、多串くんが俺のこと嫌いでしょ?なんでそんな依頼?」

「あぁ、やっぱりそう思ってやしたか」

「は?」



依頼内容に疑問を感じたのであろう。

旦那は首を傾げた。

まぁ旦那がそう思っているのは想定の範囲内だし、実際誰が見たってそう思うだろう。

俺は土方さんが嫌いで、絶対に協力はしない。

土方さんは旦那が嫌いで、だから喧嘩する。



「土方さんは、旦那のことが好きで好きで仕方ねェんでさァ」

「いやいや何言ってんの沖田くん。あれの何処が俺のことが好きだって?すれ違っただけでガン飛ばしてくるし、話し掛けたらすげェ剣幕で怒鳴られるよ?」

「土方さんはシャイなんで」

「シャイってレベルじゃねぇだろあれ!」

「まぁまぁ、ちゃんと証拠も持って来やすから。とりあえず一週間、頼みやしたよ」



ぎゃーぎゃー騒ぐ旦那に軽く微笑んで、俺は万事屋を後にした。

土方さんと俺は仲が悪い風を装っているけど、それは敵を欺く為。

俺は土方さんを兄として好きだし、甘えもするし、相談にのってもらったりもする。

逆に、今回みたいに土方さんの相談にものる。

さて、キッカケは作ってあげやしたぜィ、土方さん。

これからどこまで進展させられるかは、あんたに掛かってらァ。



〜〜〜〜〜



見回り中、向こう側から万事屋…坂田が歩いてきた。

話しかけたらしたくもない喧嘩をしてしまう。

だから見るだけ、見るだけ…

そう思いながら、ちらちらと坂田の様子を伺っていると。



「土方くん」



呼び慣れない名前を、坂田が呼んだ。

…辺りを見渡してみる。

土方って、俺、か?



「いやいやそんなにキョロキョロしなくても。土方はお前だろ」



変なの、と坂田は俺を見て笑った。



「な、なんだ、何か」

「用はないけど…そうだ、一緒に甘味食わない?」

「へ?」



ぜ、絶対におかしい!

前に土方くんと呼んでくれたときは、坂田はパチンコで勝って物凄く機嫌が良かった。

でも今日は戦利品も持っていないし、機嫌も…俺がこっそり坂田を観察している中では、普通だ。

なのに俺のことを土方くんと呼び、その上甘味を一緒になんて、おかしすぎる。



「あ、やっぱ暇じゃない?」

「…三十分くらいなら、行ってやらないこともねェが」



おかしい、おかしすぎると思いつつも、口から出るのは可愛げのない肯定の言葉。



「なんだそれ…じゃ、俺のオススメの店に連れてってやるよ」



だって坂田に誘われるなんて初めてだから。

絶対に断りたくないし、なにより。

…なにより、死ぬほど嬉しいから。



〜〜〜〜〜



『今日な、坂田とすれ違ったときに名前、呼ばれて』

『へェ』

『しかも、甘味一緒に食わねェかって、誘われて』

『すげェじゃねェですかィ』

『オススメ、頼んでくれて、でも緊張で味分かんなくて』

『ちゃんと残さず食いやしたかィ?好きな人のオススメ残したら嫌われやすぜィ』

『勿論、ちゃんと食ったさ。俺と居るのに笑ってた、坂田』

『楽しかったんですかねィ』

『だと嬉しいな…明日も、会えると良いな』



「って感じで」

「…え、これ、ヤラセだよね?演技ちょう上手くね?」

「あの人が演技出来るように見えますかィ?これは本気の本気の、本気でさァ」

「!」



沖田くんが、核爆弾を落としていった。

土方が俺のことを好きだから、名前で呼んでやってくれと依頼されたのは一週間前。

そんなわけないだろう、と沖田くんの言うことなんて信じてなかった。

でも街中で土方に会ったときに名前で呼んで、何を言われても喧嘩を買わないようにして。

そしたら、笑ったんだ、あいつ、照れたように。

そのときは、へー笑うんだ、くらいにしか思ってなかった。

なのに沖田くんが持ってきたこのビデオで、俺は確信を得てしまう。

この、



「警察ってさ…隠し撮りとかありなの…」



そう、沖田くんは土方さんが旦那を好きだと言う証拠に、と土方が沖田くんに俺のことを報告する姿を隠し撮りしてきたのだ。

嘘だろ、と否定したいのは山々だけれど。

その気持ちを口にすることが、俺にはどうしても出来なかった。



「土方さんにはちゃんと後で報告しまさァ。謹慎処分にはなるだろうけど、仕事がサボれて丁度良いや」

「そう言うことなの?」

「で、旦那ァ」



沖田くんがにやりと笑う。



「土方さんのこと、どう思いますかィ?」



どうもこいつには、土方が沖田くんに報告する姿を完全に否定出来ない俺の気持ちがバレているようだ。

可愛くないガキだこと。



「ひとつ、質問」

「なんですかィ?」



新八の二個上じゃなかったっけか。

じゃあ新八も二年経ったらこんな感じになってしまうのか。

それは嫌だ。

どうせなら



「俺が土方の気持ちを知って…きゅんとしちゃったのは、アウト?」



どうせなら、土方みたいに可愛く育って欲しいと思うよ、俺は。



〜〜〜〜〜

「だーんなァー」

「うえ、マジで部屋から出てねェの?謹慎処分くん」

「いんや、屯所内は自由に歩き回ってまさァ」

「なるほどね」

「さか、た?」

「土方」

「旦那は俺に会いに来てくれたんですぜィ」

「っ」

「嘘うそ。土方に会いに来たついでに、恋のキューピッドに挨拶してただけ」

「さ、坂田…」

「恋のキューピッドって、古いでさァ」

「うるさいよ謹慎処分くん。土方、ちょっとだけ部屋行っても良い?」

「…ち、ちょっとだけ、だぞ」

「うん」

「(一組のバカップルを誕生させてしまった俺は、なんて罪な男なんだろう)…あ、山崎ィ、ちょっと付き合え」

「い、いやですよ!俺仕事ちゅ、ぎゃ、た、隊長ォオー…!!」



〜〜〜〜〜

沖田くんは土方さんに、二日間の謹慎処分を言い渡されました^^
でも褒められたよ!(笑)

桜田茜さんのみお持ち帰り可です。
リクエストありがとうございました!





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