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□君の隣で僕は笑う
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この日は昔から大嫌いだった。

甘いものが苦手ということもあるけれど、
純粋な気持ちでチョコを渡してくる女子なんか一人も居ない。


女子は皆、チョコレートと一緒に自分の身勝手な気持ちまで押しつけて
受け取ったら自分に気があるとのだと勘違いして浮かれる。


2月14日、今日という日を過ごして来ていいことなんか一度もなかった。

今までは…。









吐く息が白く変わる寒空の下。
お気に入りのコートと白いマフラーを首に巻いて俺は一軒のコンビニを目指す。

時刻は午後23時40分。
あと20分で日付が変わってしまう深夜の暗い道を少しだけ緊張しながら俺は急いだ。

歩き慣れたこの道も、つい半年前までは通ることもなかった。
学校とも自宅とも正反対のこの道の先にあるコンビニ。

そこでその人に出会うまでは…。


薄暗かった歩道にほんの少し明るい光が差し込んできて
漸く辿り着いた光にもっともっと緊張する。




「いらっしゃいませー。」

自動ドアを潜った先、聞こえた声に頬が緩む。


「こんばんわ、坂田さん」
「あれ?土方くんだ」

品出しをしている途中だったのか大きめの段ボールを抱えたその人は
俺の姿を見た瞬間、ニコリと笑った。

その笑顔に俺は死にそうになる。
走ってきたせいだと言い訳をして、やけに熱い頬を知らないふりをした。

「お仕事ご苦労様です」
「有難う。土方君はどうしたの?」

コトリと首を傾げる坂田さんの銀色の髪が照明に当たってキラキラ光る。
そんな姿すら格好良い思ってしまう俺はもはや重症だ…。

坂田さん。
本名、坂田銀時。
有名な医療大学に通っている医大生で、このコンビニには週末の深夜〜早朝にかけてアルバイトをしている。
もの凄く優しくて、カッコよくて、無類の甘党。

俺が初めて坂田さんに会った時も、
坂田さんは休憩中だったらしくこのコンビニのデザートを食べていた。

その頃の俺は今思っても最悪な程、他人を信用していなくて
初めて会った坂田さんを変人扱いしたり、
罵ったりほんと殺してやりたいくらい失礼なことばかりした。

「たまたま「…は通らないよね?反対だし」
「………たまたまです」

俺の苦しい言い訳を遮って頭を撫でる坂田さん。
その仕種が無駄に格好良すぎるから、
俺はムッと意地を張って本当に言いたいことが言えず俯いてしまう。

もう認めてやる。
絶対今俺の顔は真っ赤だ。


だって俺はこの人が好きだから。








「はい」
「え?」

急に明るくなった視界いっぱいに見える黒と白を基調にした袋。
ほんの少し顔を上げるとしゃがみ込んで俺と視線を合わせてくれている坂田さんが居て
その両手は俺にその袋を差し出していた。

あまりの展開に言葉を失くす俺は、じわじわと視界が滲んでいくのが判る。
だってこれは坂田さんと一緒に以前このコンビニの雑誌を見ているときに俺が食べてみたいと言っていたお店のお菓子。

本当はお菓子なんて食べない俺が坂田さんに暗に今日の事を知っていて欲しくて例に挙げただけなのに
坂田さんは覚えていてくれたばかりか、俺のために買ってきてくれた。

そこに俺と同じ感情が無くても、それだけで俺は何よりも嬉しい。

「多分、土方君でも食べられると思う。ビターチョコにしたから」
「坂田さん…有難うっ」
「どういたしまして。最近流行りの逆チョコってやつ…なんだけどね?」
「っ…ぅえ?」


坂田さんからのチョコを両手で受け取って、今なら素直に気持ちが言える気がして軽く深呼吸すれば
坂田さんの口からとんでもない言葉が聞こえたような気がして声が震えた。

声だけじゃない。
足も、手も体全体が震えて、自分自身に勘違いだと必死に言い聞かせる。

だってまさか…。
坂田さんは凄く格好良くて、どうしようもないくらい落ちぶれていた俺を助けてくれた優しい人で
このコンビニに深夜にも関わらず坂田さんが居るからと言ってくる人だって沢山いる位、凄い人なのに

そんな人が俺を好きな筈がない…。


「逆チョコって…坂田さん、間違えてますよ」
「何を?」
「俺なんかに渡してどうするんですか。坂田さんにはもっといい人が居ると思うし、第一俺…男ですよ?」
「そうだね」
「っ……」

自分で言って傷ついてるなんてほんとどうしようもない。
思ってもないことをスラスラと口にする俺自身が本当に嫌いだ。
嬉しかったくせに、嬉しいと素直に言えないことも

今更になって、俺が今まで蔑ろにしてきた女の子たちの気持ちが判るなんて
馬鹿にも程があるだろ。

どうしようもなくて視線を逸らすけれど、感じる視線。
坂田さんは今どんな表情をしているんだろう。
何を思っているのだろう。

何も判らなくてただ怖くて身動きすら出来ないまま俺が黙っていると
頭上からクスクスと楽しそうな笑い声が聞こえてきて、声の方を見てみると坂田さんがお腹を押さえるようにして笑っていた。


「なっ…なにが可笑しいんですかっ!?」
「いやっ…だって、ごめんねっ…!なんか必死にに考え込んでる土方君が可愛くて
また全然違うこと考えて悩んでるのかと思ったら可笑しくなってきちゃった」

「なっ…////可愛いって…」
「うん。可愛い。土方君に初めて会ったときから俺はずっとそんな風に思ってたんだけどな」

気付いて無かったみたいでなんか俺悲しいわ。
そんな風に言って苦笑いする坂田さんに頭は真っ白だ。

「…う、そ。だって坂田さんはっ…」
「ん?」
「好きな人…居るって……」


だから俺は今日で終りにする筈だった。
相談と称して坂田さんに会いに来るのも
坂田さんを好きでいることも、みんな今日で終わりにする筈だった。

「俺の好きな人はね、半年前に凄く傷ついた様子でこのコンビニで泣いてた黒髪の優しい男の子かな」
「…それ…って」

まっすぐに俺を見る坂田さんから視線が外せない。
だって坂田さんの俺を見る目は凄く優しくて暖かいから。


「本当は凄く優しいから、人に冷たくするくせにそれを後悔して泣いちゃう不器用な子で」
「…ちょっ…坂田さんっ…」

まさか、と思い当たる俺の慌てる様子を見ながらさらに笑みを浮かべる坂田さんの手が髪を撫でる。

「自分は誰にも愛されないと勘違いして、傷つく事を怖がって他人との間に距離を作って
強がって生きてた土方十四郎っていう俺の大切に想う人だよ」

『知ってたかな?土方くん』

坂田さんがそう言う前に俺は坂田さんに抱きついていた。
どのみちあのまま坂田さんを見ていても視界は滲んで何も見えなかったのだから
この方がいい。

耐えきれず坂田さんに抱きついた俺の視界はもう涙やらなんやらで真っ暗だけど
何にも代えがたい温もりがあって、そっと背に回してくれた坂田さんの腕にもう何も考えられなくなった。

…のだけど

「だ、からっ…なんで笑うんですかぁっ…!」

涙も鼻水も酷い俺は、もうなりふり構わず坂田さんに抱きつく。
そうすると鼓動と一緒にかすかな振動が伝わってきて坂田さんが笑っている声すら聞こえてくる。

「なんでそんなに可愛いのかなぁ、って思って」
「っ……〜〜〜////」

じゃあ坂田さんはなんでそんなに格好いいんだっ!!!!!
なんて、言える筈もない俺は、少しでも伝わればいいのにと坂田さんが痛がる位抱きつく力を強くした。


ここがコンビニの中って事も忘れている俺が坂田さんに渡すチョコの存在とその事実に気付くまで、後5分。

時刻は2月14日、午前0時05分。










君の隣で僕は笑う

(君が傍にいる限り)






end





〜〜〜〜〜

(御礼)

黒瀬さん宅からフリー小説を頂いてきました^^

わたし泣き顔萌えなんですけど(←なんのカミングアウト)やっぱ十四郎くんが泣くと良いですね!ぐっときます!

あと銀→←←土にぐっときます!


ゆーちゃん、素敵な小説をありがとう(*^∨^*)

黒瀬さんの素晴らしいサイトはコチラ★★





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