お題
□色とりどりの病を僕に
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小さい頃は活発で頼れる存在。
小学校の終わりには仲の良い幼馴染み。
中学で離れて、その淋しさから気付いた気持ち。
高校で再会した時は、自分の運と勘の良さに奇跡を感じた。
彼女はエスカレーター式の女子中に入っていたから、高校もその儘女子校に上がる確率は高かった筈なのに、何故かこの高校で逢える気がして受験した。
勿論面接で合格。
周りからは当然不思議がられ、何度か別の高校を勧められたけれど何となく変えるのも面倒でその儘に。
今では変えなくて良かったと心底思う。
君にまた逢えたから。
「紫義聞いたよー!モッテモテだね旦那」
「何がですか?」
「昨日の放課後告白されたんだってね。青春じゃーん」
「………」
全くこの人は…。人の気も知らずに。
この無邪気さが愛しくもあり腹立たしくもある。
少しも妬いてくれない様子を見ると、彼女の中にある自分の存在感の薄さに落胆してしまう。
一方通行。
そんな単語が脳裏を掠める。
どうでも良い娘ばかりに好かれても虚しくなるばかり。
どうして貴女は僕を見てくれない?
他の女性の気持ちなんて欲しくない。貴女1人の気持ちが欲しいのに…。
「ねぇ、紫義は彼女つくらないの?
より取り見取りじゃんよ!!紫義に惚れない女の子なんていないんだからさ」
それなら貴女が…。
出かかった言葉を慌てて飲み込んだ。
言った所で、一笑されて終わりな事位簡単に想像出来てしまう。
どうしたら貴女の中に僕を遺せますか?
どうしたら貴女は僕を異性として見てくれますか?
貴女の特別な存在になりたい。
貴女の隣にずっといたい。
貴女の総てが欲しい。
「あ、紫義屈んで屈んで!」
「はい?」
手招きをしながら催促する彼女に従って膝を落とす。
同時に、丁寧に僕の髪に触れる小さな柔らかい手。サラサラ目に零れる髪がゆらゆら揺れる。
その光景が何故だかとても心地が良い。ずっと触れられていたくなる。
「あはは!花びら付いてたよホラ」
楽しそうに僕の掌にソレを渡し、乱れた髪をまたその手で優しく整えてくれた。
胸が切なくなる。
締め付けるように、呼吸が出来なくなる。
気が付いたら、身体が勝手に動いていた。
細い手首を掴み、その儘己の胸へと引き寄せて抱き留めた。
視界にヒラヒラと舞う花びらは、さっき彼女が僕に手渡してくれた物。
ああ、やってしまった。自分の理性が思っていたよりも脆かった事に驚いた。
小さな肩と細い腰に腕を回し、少しキツメに締め付ける。
なんて落ち着く体温、香り。
「紫義…キツイ」
「…すみません、少し目眩が」
「うっそ大丈夫!?紫義しっかりっ」
……情けない。
僕の他愛ない嘘を本気にしてくれた彼女は、惜しみ無く励ましの言葉と一緒に背や頭を撫でてくれる。
甘え過ぎな自身が本当に情けない。
それでも、あんな判りやすい嘘に騙されて、本当に心配してくれる彼女が愛しくて愛しくて。
駄目だ。
もう我慢出来ない。
この優しさが誰かのモノになる前に、僕のモノにしてしまいたい。
告白しよう。
断られる事なんて判りきっている。
それでも、手に入れる。
無理矢理でも、僕を好きにさせてみせる。
目の前の幼馴染みがそんな事を考えているだなんて、彼女はきっと露ほどにも思っていないんだろう。
少しの罪悪感を覚えながら、彼女に笑いかけて「もう大丈夫ですよ」と言えばホッと笑顔を零してくれた。
そんな表情にも跳ねる鼓動。
早く、貴女にも僕と同じ気持ちになってほしい。
難しい事だと判っているけれど、それでも…。
僕に宿った様々な感情の病は、全部貴女のせいなんですからね。
終