お題

□夜だから話したいこと
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只今pm9:31

お風呂も済んで自室の勉強机と明日提出の宿題を共に解答中。
これが終わったら心置きなく爆睡しよう。


そうして勉学に励む事数分。コツ、と窓ガラスに何かがぶつかる音。

…勉強…やりたくはないけどやらなきゃいけないのに。

ハァ、と溜め息小さく1つ吐いてカーテンを開く。
窓の下には幼馴染み兼同級生がこっちを見上げてた。

半分位窓を空けて外気に触れるとヒンヤリとした空気が顔全体を覆って寒い。
小さく息を吐いただけでも白く色が付いた。


「何やってるの…?風邪ひくよ」

「少し出れませんか?」


口元のマフラーを細い指でずらして、白い息を零しながら穏やかに笑う紫義は相変わらず優雅。


「あんまり長居はしないから」

「ええ」


あ、その顔ずるい。
そんな目を細めながら笑われたら、少し位長居しても良いかなと思ってしまうじゃないか。


寝間着だから少し厚めのコートを羽織って、マフラーをグルグル巻きにし、一応カイロも2つ程ポケットへ。
どんだけ寒がりなんだよ自分。


「お待たせー」

「近くの公園まで良いですか?」

「ん」


……やっぱり寒い。寒すぎる。長居はやめよう。うん。凍死する。命大事。


「紫義カイロ使いな。2個持ってきたから」

「有り難うございます」


まだ開封してないから袋破って中身を渡した。カイロを受け取る手はいつもは白くて綺麗なのに、今は寒さのせいか赤味が射してる。

私の2歩前をゆっくりと歩く紫義の後ろ姿は、いつの間にかもう立派に見上げる程大きく育っていた。

何だこの親のような心境は。

まぁ、小さい頃の彼は本当に色白で、正に美少年。しょっちゅう女の子に間違われてた覚えもある。

髪もサラサラだったし、目も大きくて綺麗で、アウトドアよりインドアだったな。一緒に絵本を読んだり、シャボン玉や折り紙やあやとりと、割と古風な遊びをしてた。

控え目だったし、いつも笑顔で私が手を引いて遊んでばかりだったせいか、妹のように思っていたんだよ。
顔が違い過ぎるという突っ込みはなしで。


中学で私が私立に行ってしまい、疎遠になってしまったから高校でまた同じになって本当に吃驚した。

小さい頃から「頭の良い子」だと大人達が言っていたので、私みたいな馬鹿でも入れる高校じゃなくてもっと名門校とか行っちゃうんだろうなってボンヤリ思っていたんだけどなぁ。


そういえば、再会してからだったな。紫義が私に敬語になったのは。
久々に会ったと思ったら他人行儀な言葉遣いにキレた記憶も今では懐かしい思い出だ。


「この公園も変わりましたよね…」

「そだね。前は砂場に柵無かったし」


辿り着いた遊び場は、昔2人で良く遊んだ場所。ブランコの2人乗りなんて今じゃデカすぎて出来ないな、と思いながら腰掛けたら、若干幅がキツい気がしたけどきっと気のせいだ。

紫義も隣のブランコに腰掛けて、両足を地面に付けながら小さく前後に揺れてる。


「話あるんだよね?」

「…ええ。ずっと、聞きたいと思っていた事がありまして」


何故か夜空を見上げながら喋る紫義に、少し違和感。
その目は何かを懐かしんでいるように微笑んで見えた。


「昼間でも携帯でも喋れたじゃん。急用?」

「…いえ。ただ…電話ではなく会って話したかったので。それに、思いたったら吉日とも言うでしょう?」

「今夜が吉日なんだ」

「はい」


そうしてやっとこっちを向いてくれた顔は、相変わらずの良い笑顔。
さっきの懐かしんでいるような顔は消えて、笑ってるけど淋しい、いつもの笑顔。


「その胡散臭い笑顔やめて」

「……!」

「ちゃんと話すならちゃんとして。ここ迄呼び付けて中途半端な話はしないでよ」


驚いてる驚いてる。
まぁ、寒さのせいで若干苛ついてるのもあるけど、さっきの顔見た後で今の顔されりゃキツい言葉も出るってもんだ。


「…どうして、私立から公立に戻ったんですか?エスカレーター式でその儘行ける所でしたよね」

「……え?聞きたい事ってソレ?」

「はい」


拍子抜けした。
もっとこう…二年だし、将来の事とかさ!
もしくは私の友達の誰々ちゃんが気になるんだけどどうよ?的な会話を少なからず期待していた私にとっては良い肩透かしだよ。


「どうしてって、金が予想以上に掛かるって親に怒られたから」

「……」


え、何か問題でも?
家は自慢じゃないが金は無いぞ。マジで。


「私もまさか紫義が同じ高校だと思わなかったよ。頭良いのに勿体ない」

「…少しだけ、期待をして受験をしたんですよ。結果は大当たりでした」

「期待?何に?」


そう聞いたのに答えてくれたなかった。
ただ、本当に嬉しそうにニッコリ微笑まれただけ。


「さあ、もう遅いですし帰りましょう。送ります」


紳士的に差し出された手を私は訳が判らないながら取り敢えず取った。カイロのお陰か暖かい。

結局帰り道で質問しても教えてくれなかったけど、あの胡散臭い笑顔じゃないから良いか。と納得して、明日彼のせいで出来なかった宿題を写させてもらおうと企んだ。





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