ばんがい
□暗闇の中、君は。
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「シネ。」
ゴス、と鈍い音が、男の体からした。
もう抵抗すらしなくなった塊を、無心に蹴り上げる。
「チッ…つまんねぇんだよ、クソが。」
キレているのか、それすらもわからない。
この頃はいつもこんな感じだ。
ただ喧嘩をしていると、俺は自分を忘れられそうな気がするから。
「なあ、テメェだろ?…『金髪の悪魔』。俺らんとこの下、ボコボコにしやがったの。」
ニヤリと、口許が上がった。
ああこんな俺は、嫌いじゃない。
「そうだけど?なに、お前ら。もしかしてあのザコの上?…フフっ、大した事ないんだ。」
「あんだとぉっ!!」
また、口許が上がる。
自分がどんな顔しているのかなんて、想像は出来てる。
きっと凄く妖艶に見える事だろう。
顔が良いのは自覚してる。
「また?『ギセイシャ』なんて、たくさんいるしね。」
ブシュ、と、相手の肌が切れる音がする。
夜の中では黒にしか見えない液体が、俺の顔にかかった。
「キショい。何すんの?ねぇ、きみ。」
「あ…ッ」
汚い目をいっぱいに開いて、恐怖でがたがた震えている[ソレ]は、哀れ。
「ふふっ、まあでも……手加減なんてしてあげない。」
俺の呟きなんてもう聞こえないのか、動かない足を必死で動かして、逃げようとしている[ソレ]は、
「見ててさぁ…有害物って、感じだよね。」
傍らに落ちている鉄パイプなんて、汚いヤツに触らないための、道具でしかないよ。
“ガッッ”
鉄パイプは空気を切って、[ソレ]に刺さる。
「ぐあぁあっっ」
マヌケな声だと、そう思わない?
弱いのに喧嘩なんて売ってくる君たちが悪いんだよ?
「チッ、つまんない。」
洋服とか顔とかにかかった液体が、下に流れていく感覚が気持ち悪い。
今日はもう帰ろうか。
こんな所にも、飽きたから。
でもまた明日、俺はこの街を彷徨うだろう。
だって暇つぶしが欲しいから。