+ 桜 +

□雨 音 3 【†】完結
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ヒヤリとした空気。

肩口に冷たさを感じて目が覚めた。

しかし何故だか体が怠くて瞼を開ける気にはならない。

そのまま二度寝を決め込もうとモゾモゾと布団に潜り込む。

すると隣に何か暖かな気配。


ん?定春かぁ?
よしよし、可愛いとこあんじゃん。


噛み付くなよと祈りながらソッと抱きつく。

伝わってくる体温が心地好くてウトウトと微睡み始める。


さすが動物、あったけ〜。フッカフカ〜。


と、自分の言葉に覚える違和感。


フッカフ…カ?


……ア、レッ?フカフカしないんですけど?


毛皮を求め、抱き着いた手を上へ下へと動かす。

その輪郭が、


……なんか…人っぽい?


確信した途端、急激に覚醒する意識。

カッと目を開ければ、信じられない光景。

そこにいたのは愛犬定春ではなく、真選組副長こと土方十四郎。


……スヤスヤと気持ち良さそうに寝ておりますね。


って、実況中継―っ?!
ななななにこれっ?
何? なに?! ナニ―ッ!!
つか、顔! 超近いんですけどっ!!


ピシリと固まった体に冷や汗が流れる。


なんで?なんで、こんな事にっ?
つか、ここどこ?


疑問ばかりが浮かぶ中、情況を確認すべくキョロキョロと辺りを覗う。

まず目に入ったのは、見慣れない天井。

布団も愛用の安布団ではない、軽くて肌触りの上等なもの。

そして、土方。


なんでだ―っ?!
なにが、なにがあったんだ?


パニクる寝起きの頭をフル回転させ、記憶を振り返る。


たしか、金を受け取りに行ったんだよな。
で、雨降ってきて…雨宿りして……。
そんで?
そんで、コレ?
全然わかんないんですけどっ!


歌舞伎町から離れた町で何故、土方と仲良く布団にいるのか、肝心の記憶だけがぽっかりと抜け落ちている。

もしや酒でも飲み過ぎたかと自分の息を確認してみたものの、そんな様子はない。


わっかんねぇっ!
がっ、この状態は受け付けんっ!!
起きんなよ、おーぐしっ!


布団から抜け出ようと、静かに且つ迅速に身を起こす。

途端、腰に痛みが走り布団に撃沈。


痛ッ〜!!
って、何コレ?


目に飛び込んだのは、開けた胸元に散る紅。

まさかと思いつつ、慌てて自分の体を確認する。

至る所に残る、その鬱血痕。

その意味するところは…。


こ、これはっ!
可愛がられちゃった跡っ!!


腰の痛みもその跡も、情事の後では馴染みのもの。

しかし、土方が付けたとは到底思えない。

自分に気があることは見舞いの件から確信済みだが、いきなり行為に及ぶほどの度胸はないはずだ。

女ならともかく、男相手だ。

さらに本人は自覚してないとみていた。

結果、コイツは土方ではない。

となれば…、


あっ、高杉?
寝起きで見間違えたってやつ?
サラサラ黒髪だから間違えたかな〜?
ホラ、銀さんウッカリさんだから〜。


セレブ御用達ですと言わんばかりの、隠れ宿的な室内も高杉が好みそうなものだ。

期待を込めて隣に眠る男をもう一度見る。

黒髪に隠れている顔は、
隻眼のかつて愛した男……ではない。

どんなに角度を変えて見ても、そこにいるのは両目揃った色男。

土方十四郎に他ならない。


さ、最悪っ。
面倒事が増えただけ―っ!


こんな事が別れた今もフラリとやって来ては自分を抱いていく、そのくせ嫉妬深い高杉にバレたらと思うと背筋が凍る。


だ―っ、めんどくせぇ―!!


ガクリと頭を抱えこみ、これが発覚した時の言い訳に考えを巡らす。


「おい、なに暴れてんだ」


寝癖混じりの天パを掻きむしっていると、うっすらと瞼を開けた男が見上げていた。

 
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