+ 桜 +

□Hungry?
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「旦那ァ。そんなに腹が減ってんならコレ、あげまさァ」


差し出したのは、三嶋屋の豪華3段弁当。

騒いだ酔客を片付けた礼にと先程、料亭の女将から無理矢理渡されたものだ。

総悟に預けたまま、すっかり忘れていた。

万事屋は風呂敷に包まれた弁当を暫く凝視すると、疑わし気な視線を総悟に向ける。


「…良いのか?」


「いいんでさァ。土方さんが受け取った賄賂なんでねィ」


「汚職警官最高!んじゃ、遠慮なく〜」


言ってる事は最悪だが、花でも背負ってそうな笑顔。

それが、自分だけに向けられたものではないことに苛立ちを覚える。


「沖田君は、誰かさんと違って優しいね。怪我した時も一番に見舞に来てくれたし。あの時の苺大福、美味かったわぁ」


「今度は遊びにお邪魔しても良いですかィ?」


さりげなく約束を取り付ける総悟とスウィーツ持参なら良いよと笑う万事屋に胸がチリチリと音をあげる。


土産なんて俺も持って行ったじゃねぇか。

人気店の苺ショートだったんだろ?

お前、美味そうに食っ………!!


そうだ!


俺、あの時……コイツにキッ、キスしちまったんだ!


鮮明に蘇る記憶。


急激に上がる体温。


アイツの顔を正面から見れなくなる。


赤く火照る顔を隠す様に、先に戻るぞと総悟に声を掛け場所を離れる。

暫く進んだところで、おーぐしくーんと気の抜けた声に呼び止められた。

振り向くと、よぉと手を挙げる万事屋。


なに追い掛けてきてんだよ。


「…土方だ。いい加減覚えろ」


どっちも一緒だよとふざける万事屋に何の用だと凄んでみせるが、効果はなさそうだ。


「用が無いなら行くぞ」


「あ〜悪い悪い。弁当あんがとな。ホント、助かるわ」


貰った時、素直に言えば良いものを。

それを言いに追い掛けてきたのか…。

可愛いトコ、あるじゃねぇか。


「あとさ、甘い…クリームもね」


俺の唇に指先を当てニヤリと笑う。

意味するところは、先日の……。


!!

こ、こいつっ!

絶対、ワザとだっ!

礼を言いに来たんじゃねぇ。

コイツは、嫌がらせに来たんだ!


パクパクと声を出せないでいると、

「またね」

勝ち誇った顔をして。


クルリ、踵を返し意気揚々と歩き去る。

その背中を見送りながら

激しく脈打つ鼓動を、俺は

静められずにいた。


認めたくはない…が、これはもしかして

アレなのか?

++++

 
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