+ 桜 +

□君に降る、たくさんの幸せを
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辰馬ぁこの船、何処へ行くんだ?

…あれ?いない。

さっきまで隣にいた筈の辰馬の姿がない。



「馬鹿だな、銀時ィ」

「松陽先生の所に決まっているだろ」


振り向くと、晋助とヅラが立っていた。


出会った頃の幼い日の姿。


「先生が呼んでくださったんだぞ」

えっ!

「早くしないと塾、始まるぜっ」

「晋助、宿題はやってきたのだろうな」

言い合いながら、晋助とヅラは駆け出していく。


ちょっ、待てよ!

なんでお前ら、ガキになってんだよ!

伸ばした手は小さくて。

自分もまた、幼い姿だと知る。

二人の姿を見失わないよう、急いで追い掛けた。

どれくらい走ったのか、気付けば懐かしい光景が広がっている。


毎日のように通った寺子屋。

庭の金木犀、その脇に立つあの姿は……


失った、護りたかった人。


前を駆けていた晋助とヅラの姿は無く。


此処には、ただ二人。


……先生っ!


駆け寄り、ぎゅっと抱きつけば、優しく抱きしめかえされる。


暖かな体温と甘く優しい金木犀の香り。


先生が、皆のこと呼んでくれたの?


「違いますよ。銀が皆を好きだから、皆が銀の為に集まってくれたんですよ」


懐かしい手が頭を撫でてくれる。


「…銀、大切なモノがたくさん出来たようですね。安心しましたよ」


とても心配していたんです、と強く抱きしめられた。

苦しいのに、何故かくすぐったい。


「私は、銀に幸せになってほしいんです。こうして会う事も出来なくなりますが、遠くにいても祈っていますよ」


昔と変わらない優しい、優しい微笑み。

もう、会えないなんて分かってる。

ただ今は、此処にいる貴方に甘えたい。

先生に体を預け、そっと目を閉じる。


×××

「銀ちゃーん、起きるアル」

バスンッ

「グエッ」

腹の上にダイブしてきた神楽によって、夢から強制的に覚醒させられる。

「か、神楽っ。もっとソフトに起こしてくれっ」

ゲホゲホと咳込みながら訴える。

「だって、寝ながら笑ってて気持ち悪……あっ!!恋人の夢みてたアルか?」

ヅラ・マダオ・ゴリラ・サド・マヨラーの内、誰アルか?

なんで野郎の名前ばっかなんだ。

「あ〜、恋人じゃねぇが、やたら出てきたぜ」

夢に現れたのは、大切な人達。

まじない…なかなか侮れねぇもんだな。

「まじアルかっ!スゲくね!?」

「銀さん、起きたんですか?お登勢さんが今夜、スナックでパーティー開いてくれるそうですよ」

新八がリビングから顔を覗かせると、神楽の隣に座る。

「銀さん」

「銀ちゃん」

せーのっ、と二人が笑顔で声を合わせる。



「誕生日おめでとう!」



先生。

俺、幸せになってるよ。

++++


 
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