+ 桜 +
□君に降る、たくさんの幸せを
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「銀ちゃん、お願いがあるアル」
雑誌を読んでいた神楽が、瞳を輝かせながら近づいてきた。
…ゾクリと嫌な予感が背筋を走る。
女がこんな瞳をする時、それは男が損をする前兆だ。
「金ならねーぞ?」
ねだられる前に先手に出てみたものの、切ない顔で、
「豆パンが3日続いてる時点で生活カツカツなのは、わかりきってるアル」
なんて言われてしまい、思わず込み上げた涙を堪えた。
「お金なんて掛からないネ。これ見てヨ、銀ちゃん!」
さっきまで熱心に読んでいた雑誌を机に拡げる。
そこにはピンクの文字でデカデカと、
☆恋のおまじない特集☆
と書かれていた。
お願いは、これアル。と神楽が指差すページを覗いてみる。
【未来の恋人に会う方法】
誕生日の前の晩、左足からベッドに入って枕を裏返して寝むるの!
夢の世界で未来の恋人に会えるわ♪
………全く、意味がわからない。
「妖怪、枕返しの仲間?」
昔読んだ本に、そんなのがいた気がした。
「おまじないネ。乙女の必需品アル。銀ちゃん、もうすぐ誕生日ネ。年に1回しかできないんだから、絶対やるアル!」
「んな面倒なもん、できるかっての。俺ぁ、結野アナの星占いは信じても、まじないは信じねぇんだよ」
こんなの100%嘘っぱちだ。
定春の散歩でも行ってこい。
―――なんて、やり取りをしたのは三日前のこと―――
そして俺は今、布団の前で躊躇している。
まじないなんて、信じない。
仮に信じていたとしても日付が変われば、2X才になる男がそんな少女趣味な真似はできない。
だいたい、恋人に会えるって根拠は何なんだ。
嘘クサイ。
馬鹿らしい。
銀さん、大人だし。
中2じゃないし。
絶対やんないもんね。
さ〜て、何時までも布団の前に立っていても仕方がない。
寝るか。
ゴソゴソと布団に潜り込む。
あっ………左足から入っちまった!
無意識か?!
無意識なのかっ?!
それとも神楽の奴、俺がまじないをやるってまじないを掛けてんのかっ?
ちょっ、恐っ。
……なら、敢えて実践してやろう。
んで明日、まじないなんて嘘っぱちだって教えてやる。
あ、コレは神楽のまじないが効いたんじゃなくて、神楽の為に大人の銀さんが仕方なくやってあげるんだからね。
よしっ、次は枕を裏返しにすんだったな。
バスンと裏返した枕は、何だか使い心地が悪かった。
何度も言う。
俺は、まじないなんて信じない。
…でも…なんか…準備調えたら……ワクワクしちゃってるんですけど〜!
結野アナが出てきちゃったらどうすっか!
ヤベッ、楽しくなってきた!
目を閉じ呼吸を繰り返すうち、俺は眠りに落ちていった……。
×××