+ 桜 +
□甘くて苦い
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良く晴れた昼下がり。
こんな日に見回りなんて、勿体ない。
今日もアイツを撒いて、団子屋で一休み。
ぼんやりと空を眺める。
白い雲がゆっくりと風に流れる。
フワフワとしたそれは、あの人を思い出させる。
会いたい、と思う。
雲のように遠く手に入れる事の叶わない、あの人。
せめて想いを馳せるだけならと、空を仰ぐ。
「沖田くん、サボリ?」
聞き慣れた声に肩を叩かれ、振り向けば、今まで空にあった雲が目の前に。
あぁ、心が浮き立つ。
貴方の事を想っていたんです。
自分に声をかけたのは、気まぐれだと分かっている。
けれど、胸が喜びに熱くなるのを抑えようもない。
貴方に気付かれないよう、深呼吸して心を落ちつかせる。
感情が表に出ないように。
自分がアイツみたいな顔をしたら、貴方は気付いてしまうから。
貴方を困らせたくはない。
だから平静な表情を作って、笑ってみせる。
「そんなとこです。旦那は仕事なさそうですね」
「こっちも、そんなとこ。仕事どころか金もねーよ」
肩を竦めて、貴方は当然の様に隣に座る。
フワリと鼻を擽る甘い香りは、切なさを誘う。
「奢りやすぜィ」
奥にいる給仕に、追加の団子を頼むと貴方は嬉しそうに微笑む。
跳ね上がる胸の奥、鈍い痛みが伴う。
あぁ、その笑顔が自分だけのものなら良いのに。
「ありがとう。い〜い天気だな」
「そうですねィ」
何を話せばいいのだろう。
貴方と話したい事は沢山あるはずなのに、こんな時に限って浮かばない。
暖かな陽射しの下、時間がゆっくりと流れる。
会話は無くとも、二人で時間を共有することが嬉しいと感じる。
貴方もそうであって欲しいと願う。
なのに……。
「今日はアイツ、いねぇの?」
通りを見渡しながら、貴方はアイツを探す。
胸の奥、チリチリと燃え始めた炎に悲鳴を挙げそうになる。
慣れる事のない、その痛み。
俺といるのに、アイツの事なんて考えないでください。
子供っぽい嫉妬だと分かっている。
「旦那。団子がきやしたぜ」
だから、聞こえなかった振りをして、運ばれてきた団子を手に取った。
「はい、あーん」
「んっ?あーん」
口許に差し出したそれを、素直にパクリと食べる貴方。
意識を自分に向けようと必死な自分に嘲笑う。
恋人同士のような遣り取り。
それも所詮は偽物、一人芝居。
それでも、この偽物の幸せな時間が続けば良いと願ってしまう。