+ 椿 +
□銀色の宝物 3
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「合宿に行きまーす」
夏休み突入まで、あと数日の帰り道。
俺の想い人は、唐突に言い出した。
「…お前んとこって合宿、関係なくね?」
「確かにっ!でも、こんな噂を耳にしたので行くこと決めました〜」
「噂?」
胡散臭気に聞き返せば、ふふ〜んと得意気に胸を張る。
「剣道部ってさ、海合宿なんだろ?海の幸が美味いって、長谷川センセと松平センセ
が話してんの聞いちゃった〜」
ニッコリ&ピース。
うわっ、そんな理由かよ。
食い気に釣られるとは、銀時らしい。
しかし、行くにしても剣道部と同じ合宿場になるとは限らないだろうに。
「決めました〜って、急にそんなことできんのか?」
「俺が部長だしぃ、長谷川センセにお願いしたらなんとOKでた!」
「マジでっ?!」
「うん、ウチの部員って3人しかいないじゃん?そんくらいなら剣道部の合宿にまぜてくれるよう、松平センセに頼むって」
長谷川センセって、マダオだけど優しいよな〜と続ける銀時に少し不安になる。
あのオッサン、妙に銀時に甘い…。
まさか下心でもあるんじゃねぇだろうな。
そんな俺の心配を余所に銀時は、海釣りもいいよな〜と早くも浮かれている。
遊ぶ気満々だな、オイ。
そういや、銀時と海に行った事ってなかったな。
これが初めてか…。
照り付ける灼熱の太陽。
真白い雲と輝く青い海。
波に戯れる銀色のヴィーナスが俺に向かって手を振る……。
モヤモヤと妄想が膨らんでいく。
『土方ぁ、捕まえてみろよぉ』
『ハハハッ。待てよぉ、銀時ィ』
波打ち際を踊る様に走る銀時。
追い付いた俺は、容易く銀時を腕の中に捕らえる。
『ホラ、捕まえた…』
『あっ…』
俺の胸に顔を埋め、銀時は囁く。
『ずっと、俺のそばにいてくれる?』
『馬鹿だな。俺がお前を離すわけ、な・い・だ・ろ…』
『土方…嬉しい…』
夕日に赤く照らされた俺達は、静かに唇を合わせる……。
なんてなっ!
海! 良いっ!! 最高っ!!!
現実世界では、銀色ヴィーナスこと銀時が
「あ、バス来た。また明日な!」
と走り去っていたが、妄想世界の住人と化していた俺がその事に気付いたのは、暫く後だった。
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