+ 椿 +
□銀色の宝物 1
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この夏1番の暑さになります。
今朝、結野アナが告げた気温は
午後3時を過ぎても下がらない。
― 放課後の教室 ―
学級日誌を書いていると、もう一人の日直が戻ってきた。
「お待たせ〜。ほいっ、ポカリ銀さんスペシャルでーす」
ポンと手渡されたペットボトルは、よく冷えている。
が、それ以外なんの変哲も無いポカリ。
「…どのへんがスペシャル?」
「コンビニで買ってきました〜」
机から団扇を引っ張り出し、パタパタと扇ぎ始める。
学校から1番近いコンビニは徒歩10分。
コイツはバス通学だから当然、歩いて行ったのだろう。
この炎天下の中。
遅いと思ったら、そんな所まで行っていたのか。
「あー、そりゃスペシャルだわ。つか、学校の自販機はどーした?」
それが、ヒドイ話なんだよぉと瞳を潤ませる。
「入替え中でさ、どーすっかって思ってたら沖田君登場よ。んで、チャリに乗っけてもらったんだけど………コンビニ出たら沖田君、消えてた」
冗談だと思って待ってたんだけどさぁ、見てコレと差し出された携帯を覗いてみる。
件名【レディス4始まるんで】
本文【なし】
さすが、S王子。
放置プレイか。
「俺、先輩なのにヒドくね?しょーがないから歩いたんだけど、すげー暑いわ」
パタパタ ゴクゴク ゴクゴク
「災難だったな…で、なんでポカリ飲んでんだっ!」
「喉渇いたんだもん。俺のもう無いし…怒ってる?」
不安そうに俺を見る。
そんな顔されたら、怒れるわけがない。
「怒んねーよ。つか、許可をとれ」
どうせなら間接キスが楽しめるくらい、残してくれ。
空になったボトルが恨めしい。