+ 桜 +

□子供のおいた 【†】
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連休最後の日。

交通渋滞のアナウンスをBGMに開店休業の万事屋の主は、普段と変わらない一日を過ごしていた。

五月晴れの空と窓から入ってくる風の心地好さにウトウトと微睡む。

そんな平和な午後の時間を破ったのは、携帯の電子音。

土方から預けられ、土方からしか着信のないそれが表示するのは【ダーリン】の文字。

見る度に胸糞悪い。

どうにか変えたいものだが、機械音痴なせいか直し方が分からない。

寝起きの機嫌の悪さも相まって声も刺々しいものになる。


「もしもーし。なんか用?」


『あ、俺だ。土方だ。今日もヒマか?』


「今日も、ってナンだ。殺すぞ」


と言っても空いた手でジャンプを引き寄せた現状、否定はできない。

見透かされたのに腹が立ち、電話を切ろうとオフボタンに指を伸ばす。

それを察したかのように土方が慌てて喚いた。


『ああっ!ちょっ、待てっ!切るな!今日、ほら!アレだからっ!甘いの!甘いのあるから切らないでっ!』


甘いの言葉に再び携帯を耳にする。


「甘いの?あんの?お前んとこ?」


打って変わった上機嫌の反応に土方の声が震える。


『っ!お前…今日が何の日か忘れてんのか?』


「はぁ〜?あ、柏餅か?子供の日だしなぁ」


カレンダーに目をやれば、5月5日の下には土方と殴り書きの文字。

やべ、コイツの誕生日だ。忘れてた。


『クッ……そうだ。大量にあるから食べに来い』


涙声だよ。素直に誕生日だから会いたいとか祝ってほしいとか言えないもんかね。


「んじゃ、行くわ。お茶も沸かしとけよ」


邪険に扱われているというのに怒りもしないのは、惚れた弱みという奴か。

待ってるからなと弾んだ声で電話は切れた。

さぁて、素直になれない土方君。

プレゼントは何が良いだろう。

万年金欠の自分が買ってやれるものはない。

としたら、あげられるものは一つしかない。

俺自身だ。

なんてね。何度も重ねた体だ。

今更、俺の体です。なんて喜ぶわきゃ……喜ぶな、アイツなら。

という訳で、プレゼントは何時もより少しだけサービスしてやるという事に決定し、夕飯も土方の金で食べに行こう等と都合の良い事を考えながら屯所へと向かった。

しかし、呼び出されたのにも係わらず土方は不在だった。

携帯をコールしても繋がらず、どういうことかと眉を寄せているとジミーが駆け寄ってきた。


「あ、旦那。副長からこれ預かってます」


手渡された袋には、手紙とカチューシャが入っていた。

ただのカチューシャではない。

茶色の丸っこい耳が付いていた。

ピシリと頬が強張る。

あのやろぉ、どういうつもりだ。

取り敢えず、それはジミーの目に届かないように袋ごと懐に突っ込み、手紙の封を開ける。

そこには馴染みのホテルの部屋番とそれを着けて来いとだけ書いてあった。


「おたくの副長さん、童心に返りすぎだけど大丈夫?」


「まぁ、誕生日ですしね。なんだか今日はえらく機嫌が良かったですよ」


手紙を覗きこもうとするジミーを追い払い、土方が待っているらしいホテルへと足を運ぶ。

部屋の前で渋々とカチューシャを装着する。

こんな姿、誰にも見られたくない。

が、誕生日プレゼントはこれに変更と己に言い聞かせて素早くドアを開け、身を滑り込ませた。


「おーい、多串くーん?いるんだろ、どこだ?」


こっちだと言う声に寝室の襖を開ける。

 
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