+ 桜 +
□想いを君に
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カレンダーを一枚捲った朝のこと。
日付は、新しい月を迎えた。
「おっ、もう10月か。早いもんだな」
「そうですね。ついこの間まで蝉が鳴いてたのに、すっかり涼しくなりましたねぇ」
近藤さんと山崎の会話に釣られ、箸を休めてカレンダーに目を向ける。
10月…。
なんだ?何か大切な事があったような?
「世間は3連休ですか。まぁ、真選組には関係ないですけどね」
「ん?山崎、関係なくなどないぞ。世間の皆様が安心して連休を過ごせるよう、地域の安全を護らねばな」
「はは、そうですね。すいません。でも、連休良いですよね。この時期は天候にも恵まれてるし、ミントンには打って付けですよ」
ラケットを振る真似をする山崎に、近藤さんがポンと手を打つ。
「スポーツの秋か!11日は体育の日だしな!」
体育の日、これか?
…いや、違うな。
体を動かすのは好きだが、大切な日というほどのもんじゃない。
「山崎、知ってるか?昔は10日が体育の日だったんだぞ」
「あー、そうでしたね。運動会なんかその日でしたよ」
10日。
あ、なんか思い出せそう。
食い入る様にカレンダーを見ていると、総悟が話に入ってきた。
「そういやぁ、その日は万事屋の旦那の誕生日ですぜ」
そッ、それだァァァッ!!
銀時の誕生日――――ッ!!!
なんでそんな大事な日を忘れていたのか、しかも10日は休みではない。
カタカタと震える指から箸が落ちた。
カチャンと食卓に響いたその音に総悟が振り向く。
「どうしたんですかィ、土方さん。顔色が悪いですぜィ」
「な、なんでもねぇよッ」
慌てて箸を取り、ほぼマヨネーズの丼を掻っ込む。
「へぇ〜?」
明らかに訝しんでいる視線から逃げるように、丼にマヨネーズを追加する。
思い返せば、数ヶ月前。
甘味を強請られ入ったファミレス。
そこで子供の誕生日会をしていた家族がいた。
それを横目で見つつ、互いの誕生日の話になったのだ。
「へぇ〜、土方って5月5日が誕生日なの。ガキにピッタリだな」
チョコレートが掛かった生クリームを舐めながらキヒヒと意地悪そうに笑う。
そんな表情さえも愛しい。
「うるせぇよ。そういうお前はいつなんだよ」
子供の日が誕生日なんて、それこそガキの頃から笑われている。
「俺?10月10日、10分の10。糖分の糖だよ、糖分。俺に相応しいだろ?」
「糖の申し子か?恐ろしいな」
ウインナコーヒーに似たマヨコーヒーを啜りながら、脳内手帳の最重要事項に銀時の誕生日を書き込む。
「恐ろしいよ〜?申し子の誕生日を知ったからには、祝わないと呪われるよ」
細長い銀色のスプーンをクルリと回し、ニコリと微笑む。
……俺はもう、末期かもしれねぇ。
銀時の周りにキラキラしたものが見えてしまう。
「呪われちゃあ、堪んねぇな。絶対に祝うわ」
うっとりと、その顔に魅入りながら呟く。
この申し子に呪われるなら、それもいいか、なんて馬鹿な事を思った。
その様子がぼんやりしている様に見えたのか、銀時が少し責めるような口調で言う。
「忘れんなよ?」
「忘れるわきゃねぇよッ!…つッ、付き合って初めての、ふッふッ二人のイベントだろっ!」
慌てて出た言葉が想像以上に恥ずかしい。
顔が熱い。
きっと耳まで真っ赤だ。
「ば〜か、恥ずかしいっての」
そんな事を言っている銀時の顔も赤い。
含羞んだ笑顔にクラクラする。
あーっ、もうっ!!
何でコイツ、こんなに可愛いんだよッ!!
「二人きりの特別な誕生日にしような」
少し気障な台詞かと思ったが、楽しみにしていると笑う銀時の幸せそうな表情を見て、それも有りかと思った。