+ 桜 +

□2月14日の昼下がり 【†】
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ピーンポーン


「桂ですけど〜、銀時君いますか〜?」


穏やかな土曜の昼下がり、のんびりとジャンプを読んでいたら面倒臭いのが来た。


「新八、神楽。出なくていいぞ〜って、出掛けてんだったな」


二人が留守なら尚の事、桂を家に入れる訳にはいかない。

何をされるか分かったもんじゃない。

息を殺し、銀さんも留守ですよ〜。

いるけどいませんよ〜。

帰れ〜と念じてみる。

が、無情にも玄関の開く音。


「いるではないか、銀時」


あぁ、勝手に入ってきちゃったよ。


「お前の見ている俺は幻覚だ。帰れ」


ジャンプから目を離さないまま、冷たく言い放つ。


「ほぅ、そんな事を言っても良いのか?俺が帰ったら絶対、後悔するぞ」


既に玄関の鍵、掛けてなかったの後悔してんですけど。

大した用事じゃないだろう、さっさと相手して追い払うか。


「…なんだよ」


「ふふーん、知りたいか?」

イラッ

「…別にいい」


「今日は、な〜んの日だ?そう、バレ〜ンタインデ〜だ」

妙なリズムにイライラが募る。

「チョコならやらねぇぞ」


「ふん、そう言うだろうと思ってな。今年は俺が、銀時にチョコを送ろうと思う」

満面の笑みで紙袋を掲げてみせる。


「あぁ?今年は〜って、渡した覚えは一度もないぞ」

都合良い記憶の書き換えでもしてんのか?

まぁ、くれるなら貰っておくかと袋を覗いて見れば、綺麗にラッピングされた高級チョコ。

ではなくて、生クリームにバナナと色気のないブロックチョコ。


「……なんで?」

ブロックとはいえ、チョコレート。

不服は無い…けどある。

時節柄、通常なら店頭に並ばないチョコが出回っている中、何でコレ?

せめて板チョコじゃね?

しかも、生クリームとバナナって何?

いや、どっちも好きだけどさ。

素材が生き過ぎてるよね?

もちっと、加工されてても良くね?

袋を覗いたまま、固まった俺を呆れた様に笑う。


「何か勘違いしているな、銀時。このまま食べるのではないぞ。チョコレートフォンデュだ」


「…あぁっ、溶かしたチョコにフルーツとか付けて食べるアレかっ!」


そうか、そうか。

その材料ね。あーびっくりした。


「で、何。材料だけくれて作るの俺か?」


「いや、俺が作って銀時と一緒に食べるまでがバレンタインデーだ」


「なにその家に着くまでが遠足ですよ、みたいなノリ」


まぁ、そこまで用意してくれるなら一緒に食べても良いか。


「つか、何でバナナ?銀さんといえば苺でしょ」

コイツが俺の好物を忘れる筈がない。


「馬鹿だな。バナナの方が萌えるだろうが。視覚的に」


「馬鹿はお前だよ。改めて帰ってくんない?」


聞くんじゃなかった…。

ガックリと脱力する俺の脇を

「まぁ、そう言うな。早速だが台所を借りるぞ」と通り過ぎる。

言い出したら聞かない奴だし、好きにさせるか。

バナナは小さく切っちまえばいいしな…。

台所から流れる微妙な鼻歌を耳に、俺は再びジャンプに目を落とした。

 
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