+ 桜 +
□Hungry?
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柔らかな陽射しに淡く輝く銀髪。
白く透けるような肌。
死んだ魚の様だと評される瞳は今、愁いを含んで伏せられている。
大勢の通行人の中にあっても目を引くその姿。
綺麗…だ。
男相手にそんな事を思うなんて、俺はどうかしてしまったらしい。
「あ、土方さん。旦那ですぜィ」
団子屋の前、物憂げに茶を啜る万事屋を総悟も見つけたようだ。
そうだなと返事をすれば、万事屋に駆け寄っていく。
「旦那ァ、なにしてんですかィ?」
呼掛けにゆっくりと上げられる紅い瞳は、潤みを帯びて俺の心臓を高鳴らせる。
この男、無駄に色気があるんだよな。
「あ…沖田君に多串君」
微かに掠れた力の無い声。
「どうしました?元気がないですぜィ」
………あぁ…小さく頷くと、再び視線を落としてしまう。
口を開けば、ポンポンと減らず口を叩くコイツらしくない。
何かあったのなら相談に乗ってやるのに。
「おい、なんか悩……」
「言ってくだせィ。力になりやすぜ」
あ、先に言われた。
言いかけた言葉を煙草に変えて飲み込み、万事屋の様子を窺うと、総悟の力になるという言葉に万事屋がピクリと反応した。
視線は足元に落としたまま、静かに話し始める。
「…腹が…腹が減って…でも…金ねぇし……だから…甘い団子の匂いで…がっ我慢…して…るんだ」
若干、涙声。
「どんっだけ貧乏なんだ、てめぇはっ!」
もっと深刻な悩みでも抱えてんのかと思いきや…呆れるのと安心したのとで深く深く溜め息をついた。
その途端、立ち上がり様に睨まれる。
「カッチーンときた!銀さん、今の言葉にはカッチーンときたよ!」
グワッと胸倉を掴まれ、物凄い剣幕で揺さ振られる。
「今の俺がっ、団子も買えねぇくらい貧乏なのは、誰かさんに怪我ぁさせられちまって仕事できなかったからなんだよ!なけなしの貯金も胃拡張娘を養うのにイッパイイッパイなんだっての!」
「わ、わりぃ」
「つーわけだからさ、団子買ってくんない?」
打って変わり、コテンッと笑顔で首を傾けるその仕種にクラリ。
可愛いじゃねぇかぁぁぁっ!
思わず、見惚れてしまう。
が、総悟の訝しむような視線を感じハッとする。
ま、まずい。
男に対して可愛いだなんて思ったのが総悟にバレたら、切腹の方がマシな目に合うに違いねぇ。
嫌な汗が背中を伝う。
なんとしても、ごまかさねば。
新しい煙草に火を点け、何時もの様に万事屋をあしらってみる。
「そ、それとこれは別だ。ふざけんのは天パだけにしとけよ」
冷たく言い放つと折角の笑顔が曇り、目を反らされた。
ズキリ、心臓が痛む。
「納税者に税金を還元するチャンスを与えてやったってのによぉ」
「税金納めてない奴に還元する金なんか無ぇんだよ」
「あ〜そうですか。も、どうでもいいよ。腹減って無駄な体力使いたくねぇわ」
その割に、背中と腹がくっつくだの糖分が足りないだのと訴え続ける。
総悟さえいなかったら団子と言わず、昼飯に連れて行ってやるんだが…。
チラリと隣を見遣るとそれまで黙っていた総悟が口を開いた。