+ 桜 +

□甘くて苦い
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アイツとあの人は、似ている。

姿形、趣味嗜好さえも正反対。

なのに似ていると感じさせるのは、生き方だろうか。

護る側の生き方、考え方。

そして覚悟。

それは自分には、まだ…足りないもの。


自分とあの人は、似ていない。

けれど、共通する事はある。

所謂、Sなところだ。

と言っても、あの人のソレと自分のソレは違う。

周囲の奴らがSだと評するあの人の態度、言動。

あれは、からかっているだけだ。

あの人がサディスティックに振る舞うのは、アイツだけ。


同族嫌悪と言うのか。

アイツとあの人は、会う度にぶつかり合う。

それを羨ましいと思うようになったのは、いつの日だったろうか…。

自分とあの人は、口喧嘩さえしない。

いや、してもらえないと言った方が正しい。

餓鬼扱い、されているのだ。

あの人は優しい人だから。

だから、我慢できた。

口喧嘩さえ出来ない、同じ位置に立てない事に。

それでも、いつか対等に見てもらえる日を願っていた。

少しでもあの人に近づきたくて、視線はその姿を追った。

だから、二人の睨み合う瞳に潜む感情に気付いてしまった。

信じたく…なかった。

全身を駆け抜けたのは失望、怒り、嫉み。

その感情に二人がまだ気付いていない事への苛立ち。

決して自分が入り込む余地のないそれ。

叶わない願いならば、せめてあの人に気付かれないように。

身を焦がすような、この想い。

幾重にも鍵を掛けた。


…アイツは、俺の欲しいモノを奪っていく。


溢れそうになる涙を、泣いたら負けだと堪える。

代わりに零れたのは……


「そんなの…狡いじゃねぇか」


子供染みた言葉だった。

 
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