Nove

□.室町.
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青々と繁る潤いのある若葉が風に揺られ、葉と葉がこすれあい自然の音を奏でている。上を見上げれば、木と木の間から雲一つ見当たらない青い空が見えて、あぁいい天気だなぁとのんびり考えた。どこからか小鳥の囀りも聞こえる。
こんな穏やかな時間が、どうしていつまでも続かないのだろうなんて、刻々と流れていくこの瞬間に想うのは永遠に答えの無い疑問なんだろうなぁとまたのんびり考えた。
ぼんやり上を向いていたのを、ゆぅるりと下へ向く。穏やかに流れるこの瞬間にはとても歪つな存在と思えるものが足元にいる。より近付こうとしゃがみ込み、そっと顔を近づけた。か細い音が耳に聴こえ目を閉じてまだ生きているんだと感じ、同じ様に隣へ寝転んだ。指先を唯一露出している相手の目へ寄せて瞼を閉じさせる。耳を澄まさなければ聴こえない呼吸音。瞼から胸へ掌を移動して手を沿えれば、いつも巻いている白い包帯は血に染まり生暖かく、胸は微弱に上下しているのが解る。
今頃あの人は何してるんだろうなぁと、この状況に似つかわしくないが自分の想い人の事を考えた。そろそろ帰宅した頃だろうか?それとも仕事へ向かっただろうか?もしくは……隣で横たわるこの人を刺した手で、誰かに触れているだろうか。触れるなら自分に触れて欲しいと想う。この人を殺したその掌で自分の頬を包み、口づけを落として欲しい。その度に、今死にかけている、もう死んでしまうこの人を思い出すだろう。その掌で頭を撫でられる度、この人に頭を撫でられた事を思い出すだろう。
想い人に触れられて、この人の事を思い出す。なんて滑稽な幸せなのだろう。あまりにもおかしくて思わずくすりと声が漏れた。
突風が木々を揺らし、この人の最後を見送った。

「おやすみなさい、組頭」















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