Nove

□.室町.
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「何だか尊奈門と会話をするのが久しぶりな気がする。おかしいね、いつもお前を傍においているのに」
「……私も組頭と話すのは久しぶりな気がしますよ」

そう言ってお前は困った様に笑った。しかし何処か嬉しそうにも見える。
部屋を抜け出しゆったりと廊下を歩けばちゃんと尊奈門もいつも通り一歩後ろをついて来る。それも何だか懐かしいなぁなんて思ってしまった。
今日は珍しく屋敷内が静かだ。何かしら黄昏時の私の部下がそこらで騒いでいるのだが、様子がおかしい。
前方から小頭が早歩きで向かって来るのが見えて片手を上げてやぁと挨拶をした。……筈だったのに、何故だか彼はするりと私達の横を通り過ぎて行く。組頭の私に挨拶も無しだなんて失礼な、と思ったが、彼が何やら小さく漏らしていた言葉が耳に入る。

「──まるで後を追うようにいくなんて──」

過ぎ去って行く彼の背を振り返って見た。尊奈門は悲しげな目をしたと思ったら、小頭の背に向かって深いお辞儀を一つ。そこで私は思い出した。全て思い出した。

「尊奈門……あぁ、そうか、そうかお前は、」

私の言葉にお辞儀を終えて振り返った尊奈門は、また先程と同じ様な困った笑顔をした。小頭の言葉が頭に響く。
──まるで後を追うように逝くなんて──

「尊奈門、私を迎えに来たんだね」
「……ずっと、お待ちしておりました。貴方のお傍で……」

懐かしいその身体を抱きしめる。そっと背中へ回してきた腕が愛おしい。待つというのはどれ程の想いだったのだろう。私は目覚めればすぐ尊奈門が傍らに居た。触れもせず、喋れもせず、ただ見守る事しか出来ない、存在さえも気付いて貰えない。

「私の可愛い部下。来世では決して待たせぬよう気をつけるよ」
「はい。……さぁ、いきましょう」

再び戦乱の世に生まれたとしても、私は、お前と共にあり続けるだろう。














別れ、出会い
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