BASARA・噺

□いまわの際
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初めて対面したのは、勿論戦場だった…

相も変わらず血の臭いと土煙とが風に流されてくる。

なにもかも色褪せて、生あるものが存在しない世界の様な気さえする。


そんな中で出会ってしまったのだ。これから先、きっと生が尽きるまで忘れられない紅・蒼


政宗は思った。

《あぁ…なんて紅い…朝焼けよりも夕焼けの赤色よりも紅い。そうだ、焔の紅。焔が燃え上がり、紅蓮と化す刹那。まさに紅蓮の鬼と呼ぶに相応しいではないか…》


幸村は思った。

《空の青より蒼く、海の青より蒼い…これをなんと言うのだろうか…そう、例えるならば、夜が明ける間際の闇の蒼。雷の煌めく瞬間にも似た感じ》


互いに名乗りを上げ、刃を交えた。手が痺れる。止めることの出来ない高ぶりと歓喜に震える自分がいる。出会えた事に素直に喜ぶ自分と相手を討ち取った後の事を考えての消失感に恐怖を感じる。


−もし…

『もし目の前の相手がこの世から消えてしまったら…自分は正気でいられるだろうか?』


出会ってしまった幸福と出会ってしまった不幸。惹かれ合い求め合う


間合いを取って離れた時、先に政宗が声を発した

「…なぁ、真田」

「っ…なんでござろう」

いきなりの声掛けに心臓が跳ねるのが自分で分かる

「…俺が死ぬ時は…お前が死ぬ時だ」

片方しかない目をとじ、安らかに、はかなげに微笑んだ
その端正で綺麗な表情に胸が高鳴る

「…承知致した。某が死ぬ時は、伊達殿が死ぬ時で御座る」


たった数分の。出合い頭の鍔ぜり合いで、互いの死を委ねた。


《この人に出会う為に、きっと生まれてきたのだろう。ならば、この人のいない世に、なんの未練があることか…》と幸村は思った


《今日コイツに会う為に、自分は生きながらえたのか。幼き頃の喪失感と屈辱、諦めの日々はこの日の為にあったのか。ならばいつか、どちらかが逝く時には、同じ瞬間に互いは息絶えなければならない》と政宗は思う


―あぁ、もし、例えば出会わずにどちらかが生を終えていたとしたら。互いに気付かずに生きていったとしたら、それはなんと物足りなく、つまらない事だろう


相手に会う為に生まれてきたのだと、初めて思えた瞬間だった…

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