□廊下の滑走路
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『好きです。』





荒々しくもなく。
特別可愛い字でもない。

帰りのHRに配られた安っぽい紙に、アタシは派手派手しいピンクのペンで書いた。











テニス部は今日も練習で、アタシといえばそれを見るのが日課になっている。ベランダからが丁度良い。広いグラウンドを見渡すアタシの特等席。

ぱこ、とボールを打ち返す音が聞こえる。


「やってるやってる」

このリズム感なんか全くない、不規則なボールの音。
アタシは好きでたまらない。


というのは綺麗事で、ホントはもっと好きでたまらない人がいる。

地味、ていわれてるけどアタシはそうは思わない。(多分)
テニス部の部長で、背が高い。優しくて、かっこよくて、真面目で。

上手くいえないけどとにかくアタシは彼が好き。南、健太郎。




「あー……」


暫く練習をみてたけど、今日は終わるのが早いみたい。もう片付けしてる。

「しゃーない。アタシもかーえろ」

独り言をぼやいて立ち上がる。手には先程落書き同然に書き散らしたプリント。

……を、紙飛行機の形に折ったもの。

「………………」


えい。


と、飛ばしてみた。アタシの愛の重さにもかかわらず、その紙飛行機はすいすいと狭い廊下を飛ぶ。

そして着陸。

思ったよりもよく飛んでくれたのが妙に嬉しくて、何だか良い気分。


「ほらっ」


「えーい」


なんかもう、ただの馬鹿だった。
飛行機が飛んでくのを見るのが楽しくて暫く遊んでた。

この飛行機が高く飛ぶたびに、アタシの気持ちも高く飛んでた。

“好き”っていう、気持ちを乗せて。




そして、そんな飛行機との突然の別れ。

たまたま窓が開いてて、悲しいことにアタシの紙飛行機は本当に大空に飛び立ってしまった。

「……………」


けどなんだか満足。

いってらっしゃい、とか思いながら見送ってた。


「……………え…」


アタシの目には、ばっちり写った。飛ばした紙飛行機はそのままグングン飛んでいって、歩いていた人にぶつかった。アタシにはそれまでが、ものすごくゆっくりに見えた。

「……………や、ば…」




ばっちり、目が合った。


紙飛行機のお導きか。
南君でした。

そのまま困ったように笑顔を浮かべるとふいに下を向いた。何かが見えたらしくて彼はその紙飛行機をゆっくり広げる。


「…………え…」


そう言ったのは多分、アタシだけじゃない。遠くの南君も同じ口の開き方してるもん。


「だ、ダメ!」


今更焦ったって当然遅くて南君はそれを読んでしまったらしい。

やばい、と消沈してると南君がいない。


「………アレ…」





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