アジトチラ見

□レモン風味のカルボナーラ、付け合せかぼちゃの煮物
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「あれ。」
英元が、リビングを覗くと、一人がけのソファーで、珍しく葵がうたた寝をしていた。
先ほどまで英元が貸した本を、熱心に読んでるなぁと思っていたら、今は心地よさそうに寝息を立てている。

心地良い風が、白いレースのカーテンをそよそよと靡かせ、葵の前髪もさらさらと額を擦っている。
飲んでいた珈琲は、すでに冷たくなり、酸味をおび、飲めたものではなくなっているであろう。

隣の洋室から聞こえる、声が大きくなってきた。
和白文治ことぶんちんと、霧島陽が先ほどからお菓子をバリバリと鳴らしながら、映画を見ていたのだが、つまらなくなったのか、ギャーギャーと話し始めたようである。

先週、葵は大層忙しそうにしていたのを、英元は知っていた。

終電か、それをも乗り過ごしタクシーで帰ってきては、シャワーを浴び、再びリビングの一人がけソファーに腰掛けては、サイドテーブルに置いたパソコンに向かうという日を繰り返していた。
宵っ張りの英元は、大抵その時間帯、音楽を聴くか、本を捲るかしている為、
『そのままでは、日本酒かワインにつまみの肴で済まそうとするから。』と、代打の料理係である伊達が、葵用に取り分けていた夕飯を、葵が返ってくるとレンジで温めた。

ようやく、ひと息つけたのだろう。

「寝かせておいてあげよう。」と、隣の部屋で騒ぐ、ぶんちんと陽に向かって、英元は口元で人差し指を立て、別の人差し指で、寝ている葵を指さし合図した。
「ちょうど小腹も減ったし、何か食いに行くか。」と、陽はぶんちんが抱えているスナック菓子の袋から、一つまみ取り出し、口に放り込んだ。
「って、食いながら言うか…」と、呆れ顔で英元が答えた。
「や、これが、ヤミツキ。止まらなくなるんだってば。」と、靴を履き終えたぶんちんが、スナック菓子の袋を英元に差し出す。
勧められるがままに英元が取り出した、分厚く膨らんだ半円状のスナック菓子には、市販品にはあり得ない、何かがかかっていた。
生臭い。
陽の仕業に違いない。
「何掛けやがった?」と、恐る恐る聞くと、
「レモンペッパーとレモン塩とパプリカパウダーにアンチョビペースト混ぜたやつ。」と言いながら、陽は、また一つまみ口に放り込んでいる。
まぁ食べれないものでもなさそうだと、英元も口に放る。
ぶんちんの表現はまさにその通り。これは全く市販の味とは異なるが、癖になる魅力を持っていた。

「生臭いですよ、お客様って言われそうだな。」と、もうひと口、咥えながら英元が笑った。

大の大人3人、むしゃむしゃとスナック菓子を頬張りながら、路地を歩く。
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