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□君が愛してくれるなら
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やっぱり、同性同士で付き合うっていうのはおかしいのだろう。
考えてみればすぐに分かることなんだ。だけど、何で彼奴は俺を好きだなどと云うんだろう。
そしてどうして俺も…それを一言の下切って捨てられないのだろう。





『君が愛してくれるなら。』





ふと見上げれば早咲きの桜が舞っていた。
少し、思い出した。




先輩、先輩、とそいつは云い続けていた。
噂は聞いていたけれど、予想していたよりも人間くさかったし、日本に馴染んでいた。出逢った当初から気になる奴だとは思ったんだ。

ご飯を毎回作ってきてくれて、明るくて、優しくて、こんな変わった俺のことを好きだ好きだと云ってくれていた。


だから、いきなり音信不通になるとは思わなかった。
寂しく…なっていた。
そうだった。俺はずっと意識してきていたんだった。

ちょっと過ぎたようなスキンシップも、彼奴なら気にならなかったから。
あまつさえ無意識に、兎に嫉妬していたのだ。
彼奴は兎に会うと大分…ホッとして笑っていたから。

流れゆく生活の中で、様々なことを彼奴と結びつけては思い出してみたりして。
兎とは偶に話したけど、彼奴は変わりなく生活してるとしか聞かなかった。
意識してるのは俺だけだったんだろうなと。淋しくなった。




まさか卒業を間近に控えた今日、いきなりまた逢いに来られるとは思わなかった…。
もう逢えないんだと思っていた頃だった。
そして幾度か夢にまで視る頃だった。最初は夢かと思った。

他愛ないことしか喋れなかった。
あまりに久しくて。

─…告白された。堂々、恋愛対象として見てくれと。
不意打ちで唇を奪われて。

満たされない、とアレンは呟いた。
もうこの距離では満足出来ないくらい好きで好きで愛してしまったから、もう今のままじゃ傍に居られない、と。
壊してしまうから、と。

「俺は…」

蚊の鳴くような声でポツリ。

この1年間沢山のことがあった。
お前と出逢って俺は確かに─…
「お前の愛は、あまりに大きい」

俺のこの、小さな器には到底余る、受け止めきれないくらいの愛。
「俺は相応の気持ちを返せるかは分からない、だけど─…」
それでも良いならば。

また逢えなくなるのは嫌だ。寂しい。
お前以外の肌も匂いも唇も、知らなくて良いと思える。そしてお前も…俺以外を知らなくて良い。
ああ、いつから俺はこんなに貪欲になっていたのだろう。

「離れて、距離をとって分かったんだ。俺は…お前と一緒に居たい」

花びらひとつ、頬を掠めていくのを見て、堪らなく触りたい衝動に駆られた。
その頬にキスをした。
「卒業してもずっと…」

涙ぐんでいる目がこちらを覗き込んできた。
ああ…何て綺麗なんだろう。そして何故そのことに今まで気づかなかったんだろう。




「俺なんかどうして好きになったんだ…?こんなに可愛げねぇ女、嫁の貰い手もねぇからな」
「貴女は綺麗ですよ…あ、だったら僕がお嫁に貰ったげます!!何なら明日からでもいつでも!!うち両親海外ですから」
「はあ…?寧ろ普通に考えたらお前が嫁だろ。俺が18でお前が16…」
「あ、僕まだ16じゃないですから」

「そうか…って、は!?じゃ…」
16じゃないだと!?
そんなの聞いてない。

「13で義務教育分は向こうで終わらせてきましたからね。ほら、僕帰国子女」
「…ああー…」
「だから大抵みんなに敬語でしょう?」
「…さっき突然敬語崩したろ」
「えへ、そっちの方が利くかなって。」
そういう問題じゃない気がする。

「好きですー」
抱きついてきた。

「ひとつだけ…聞きてぇことがある」
これをすっきりさせない限り、俺は多分本当に好きにはなれない。
「はい」
「多分気の所為じゃ…ないだろう。お前は兎を見つけるといつも安堵していたな?」
モヤシは目を丸くさせ、キョトンと。

「ラビを…あ、ああ…あの、先輩、今まで誰か好きになったことあります?」
「いや…」
お前が初めてだ、と云おうとしたが、その返事で十分だったらしく、すぐに話を続ける。
「それは嬉しいです。それで、好きな人の前では誰しも、緊張するものなんです。特に2人きりなんて…普通、滅多にないから」
俺は首を傾げる。
「うん、分かんないかな。でもそういうものです。それに、好きな人の前では良いカッコしたいでしょう?少しでも貴女が僕に好意を持ってくれますように。…だから、お弁当褒められた時は嬉しくって」
それは…俺だってその笑顔が嬉しくて…。

「だからちょっとでも良いカッコしようと、貴女の前ではいつも気を張ってた。でもラビがいると少しは緊張もほぐれるしラビは僕が貴女のこと好きなの知ってるから安心出来て…っていう訳なんですが。安心されました?お嬢様」
そんなに俺を好きで居てくれたのだと、また嬉しくなった。

「そうだな…卒業…したら、迎えにこい」
だから今度は俺が返す番だ。
「?」
「嫁に行ってやる…」
「!!、いい行きます!!迎えに!!来てくださいね約束ですから!」
馬鹿馬鹿しいと分かっていたから、ああ、と軽く頬を熱くして頷いた。


不安なことだって本当はある。だけど1人の人からこんなに求められたのは初めてだった。

「君が愛してくれるなら─…」

「へ?何か言いました?」

「きっと、もっともっと君を愛せると思うよ…」

「神田…愛してる…」

だから待ってて。もう少し。


きっときっと、君が愛してくれるなら。
心の底から君を愛して已まなくなる日が訪れる。
だから俺は今、君を全て受け入れる。

「“大好き”」
だから。





End.

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