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□「大好き」よりも大きな心
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秋晴れの空の下、僕という罪人は虚しく一人涙を流していた。
罪を犯した者には相応しき制裁を。
そしてその裁きに耐えられない弱き僕は涙を流すのだ。






『「大好き」よりも大きな心』






いつだったろうか。僕が先輩を意識し始めたのは。
二個年上の、剣道部主将の、格好良い先輩。
神田ユウ、先輩。



僕らが入学した4月当初から学校内じゃ有名だった。家系の珍しさもあったのだろう。
だけど当時の僕はそんなモノに興味は無かった。僕はラビと気紛れに遊んでいた。

「なー、アレンも一回見てきたら?むちゃくちゃカッコいいさよユウ先輩ー」
5月頃のことだったと思う。
僕ら一年の中でも本当に先輩の有名っぷりと云ったら無かったんだ!

「興味ナイって云ってるでしょ。そんなこと云ってるとお弁当作ってあげないよ」
「えっそれだけは勘弁さー!!」
「じゃあもうその話は…」
「でも一回ぐらい剣道してるとこは見たって損じゃないと思うんさ…」
にっこり笑った僕は、ラビのお弁当を奪い、その日ラビは罰として昼御飯抜きとなった。



だけど、その日の放課後、僕は出逢ってしまったんだ。

弓道場へ向かう途中、剣道場から声がして、反射的に振り向いた。
そしたら綺麗に一本をとった先輩が一礼して面を脱ぐその瞬間、僕は思わず見惚れてしまった。
部員と言葉を交わし、微笑しながらタオルで汗を拭って水を飲んで剣道場から出てくる先輩。そして目が合うその瞬間まで目が離せなかった。

「…?何だテメェ。弓道部の一年か?」
「え、えっと、はい!」
「良いのか?」
水を一口飲んで微笑した先輩がそう云った。
「…はい?」
「部長。鬼のような形相だぜ」
指差したその先には弓道場。思えばもう遅刻の時間。
「〜〜〜!!しっ、失礼します!!」
「ククッ 変なモヤシ…」
僕は顔を真っ赤にしたり真っ青にしたり、弓道場へと走った。してみればあの人がラビの云っていた神田ユウ先輩かななどと思いながら。

鬼の部長にはこっぴどく叱られた。



土日を挟んだ週の頭の日、ラビを誘って剣道場へ足を運んだ。
どんな気の変わりようさ、という質問を受け流す為に豪華なお弁当を作って。



先輩は、僕を覚えていてくれた。
この前と同じ、面を取る瞬間の長い髪が舞う感じとか、汗が飛び散る感じとか、先輩の上気した顔とか。
やっぱり見惚れてしまう、とそう思った。

「─…あ、この前のモヤシ」

周りを囲む女子を一瞥、しかし向かってくるのはこっち。他の人など構わない。
覚えていてくれた、けど。

「モヤ!?」
「…と、兎…またか」
「違うんさ先輩〜今日はアレンに連れてこられたんさ〜」
「アレン?」
「僕のことです!!」
殆ど初対面に等しい僕を先輩は、“モヤシ”と呼んだ。

「…お前モヤシな」
「ええっ」
「まあまあアレン。オレも兎って呼ばれてるしさ〜」
そういう問題じゃないだろうと思うが。
「んで?遅刻魔のモヤシが何の用だ」
「遅刻魔じゃないです…あ、の!僕…」
「俺は3ーCの神田だ。お前は?」
「1ーCのアレン・ウォーカーと云います!今日は、お弁当を…」
「アレンの弁当美味いから、先輩に持ってってやりゃ良いって云ったンス〜それが罰ゲームだから、な?」
ニヤリと笑うラビに僕は何も云い返せないでいる。何故ならそうでもして理由を付けなければ先輩にお弁当なんて渡せないと思っていたからだ。

「あ…帰国子女ってお前のことか!!どうりで…」
それで散々一時期は騒がれた。だからこそ僕は騒がれるモノに興味がないのである。
「別に俺には関係ねぇけど。じゃ、俺練習だから。ありがたく頂いとく。弁当箱、明日洗って返すな。良いか?」
「はい!」
「んじゃー」

それだけ云って去っていく先輩の姿に、確かに心揺さぶられた。



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