展示

□ice cream
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【ice cream】








「君可愛いね。どう?一緒に遊ばない?」


あぁ、まただと溜め息が出る。

そういう奴らはいつも体を舐め回すような視線で私を見てくる。
そんなにジロジロ見たって、白いシャツの下を見ることなんて出来やしないのに



「………」


そいつの吐き出す空気が耐えきれなくて、そこから抜け出すように走った。
無視が一番だっていうことは、もうとっくに記憶済み。

生温い風が顔を撫で、思わず不快そうに眉をしかめた。まだまだ夏はこれからだ
というのに、こんなに暑くては夏を乗り越えられる自信がない。
しばらく走ったところで、バックから携帯を取り出しメールを作成する。
集合場所を変更せざるを得なくなった理由は飛ばして、取りあえず現在位置を伝
える。
すると、背後に先ほどのうざい視線が注がれているのに気付いた。その次の瞬間
に、腕にベタベタしたものが触れてくる。


「逃げるなよ〜。せっかくいい子見つけたのに」


密着しているため、そいつの吐き出す息が直に耳にかかった。

あまりの気持ち悪さに体の細胞の一つ一つがざわめく。
馴れ馴れしく触らないで、私を見ないで。私に触れていいのはあの子だけなの。


掴まれている方の腕を振り上げ、相手のバランスを崩す。よろけた体に全力で蹴
りを食らわせてやろうとした時、ターゲットの体が弾き飛んだ。
何が起こったのか分からなくて、ぼーっと眺めていると、目の前にいる白髪の少
女が自分に手を出した。


「先輩、大丈夫ですか?」


ふわりと笑う彼女こそ、今日私と買い物に行くはずのパートナー。
額に汗を浮かべるアレンの手をとって、にやりと笑い返した。


「遅ェ。助けるならもっと早く助けろ」

「そんなこと言ったって…先輩急に場所変えちゃうんだもん」


しゅんと、頭に動物の耳が生えていたらそれは見事に垂れていそうな顔をするも
のだから、自然と口から笑みが零れる。
あ、何笑ってるんですかー。と機嫌を悪くする少女の手をぎゅぅっと強く握り、
さあ行こうというように歩き出した。





―…―…―…―…―





彼女は綺麗だ。
だから僕は惹かれたのだけれど、段々話す回数が増すようになって、彼女が綺麗
なのは外見だけではないんだと気付いた。

その少し低い声もちょっとした仕草も性格も癖も雰囲気も全て、綺麗なんだ。
それは結構なんだけど、綺麗なのはいいことなんだけど、それが原因で彼女がよ
く下心ありまくりの男に引っかかるのが気が気でなかった。
僕が傍にいるときは追い払うことが出きるからいい。でも、一人っきりの時は?

彼女は剣道部の部長だし運動神経は抜群だけど、もしもの時を考えたら怖い。
だって、先輩は女の子なのだ。

僕が男だったら、彼氏だと思われて男どもも諦めてくれるのに。何で僕は女なん
だ?






「逃げるなよ〜。せっかくいい子見つけたのに」


見覚えのある黒髪にまとわりつく金髪の男に、怒りで頭の中がぐじゃぐじゃにな
って、逆に体が動かなくなった。
白い腕が不快な手から解放されたのを見て、ようやく我に返った僕の体は先輩と
男の間に入り込み、拳を振り上げる。

先輩の無事を確認しようと彼女をうかがうと、何が起こったのか分からないとい
うような顔が目に映って苦笑する。


「先輩、大丈夫ですか?」


眩しい日差しで汗ばんだ額はそのままに、いつものように笑顔で腕を差し出す。
戸惑いながらも手をとる彼女に、僕は嬉しくなって更に笑みが濃くなるのが分か
った。

さっき殴った男が何かを叫びながら(多分嫌みだろうが)道をかけていく気配を
感じたが無視をする。


「遅ェ。助けるならもっと早く助けろ」


そう口角を上げて不適に笑う姿は妖艶。
そんな顔はこんな街中でして欲しくない、というか僕以外にはしてほしくないな
、と思いながら視線を下げる。


「そんなこと言ったって…先輩急に場所変えちゃうんだもん」


そんな僕を見て、また先輩は笑うものだから僕は機嫌が悪くなった。だけど、差
し出した手を強く握り締める手に心がぽかぽかして、これ以上ないくらい幸せに
なる。





彼女に連れられて着いた場所は最近出来たばかりのデパート。自動ドアをくぐる
とすぅっと冷気が体に当たり、汗がひいていく。
さすがに今話題の建物というだけあって、中は人で溢れかえっていた。そんな中
を先輩の足は迷いがなく、どこかへ向かっていく。


「せ、先輩。どこに行くんですか?」


僕の言葉にはノーコメントな彼女。
仕方なく着いていくと、先輩はあるところで止まった。


そこは、


「アイス食べたいんですか?」

「暑いから」


女子高生たちが数人並んでいる列には僕が並んで、先輩は先に席をとっておくこ
とになった。
ただ先輩は並びたくなかっただけだろうけど。

僕はストロベリーバニラ、彼女にはシンプルにチョコを頼み席に向かうと、また
二人ほどの男に絡まれている先輩を見つけて溜め息を吐く。


「だから一人じゃないって言ってんだろっ!今すぐ消え失せろ!」


僕でも逃げ出すだろう怒声に、男たちは一目散に逃げ出す。それを見送って、僕
は席に着いた。
先輩は髪をかきあげながらカップを持ち上げ、溶けだしそうなアイスを口にもく
もくと運ぶ。
こういうときは何も言わない方がいいって分かってるから、僕も無言でアイスを
食べた。

甘いバニラにストロベリーの酸味が加わったそれは美味しくて、夢中で口に詰め
込んだ。
ふと、視線を感じて前を見ると、先輩の黒い瞳が僕の手元を見つめていて。
食べたいのかな、と思ってカップを差し出すと彼女は一口分すくって口に入れた



「美味しいですか?」

「甘い」

「……まぁ、アイスは甘いですよね」

「あと苺の味がする」


なんとも感想とは言い難い彼女の言葉に、僕は苦笑した。
すると彼女が自分のスプーンを差し出した。スプーンには茶色いアイスがのって
いて、僕はアイスと先輩を見比べる。

それに眉をしかめた先輩は、いきなりスプーンを僕の口につっこんだ。

甘いけど苦い味が、口に広がる。


「せせせ、先輩!?」

「なんだよ」


多分お返し、っていうことなんだろうけど、これはこれはまるで恋人じゃないか
っ!!いや、先輩は女の子同士だから気にしてないんだろうけど。でも僕にとって
はこれは嬉しすぎるよ!?


「おい、何ぼーっとしてるんだよ」


しばらくフリーズしていたらしい。
慌てて僕は返事をした。


「あ、あの…ありがとうございますっ!」

「?……あぁ」


甘い。甘すぎる。

ここに来たのだって、きっと僕を気遣ってのことなんだ、きっと。
そう思ったら自然に口が緩んで。



溶けていくカップの中のアイスが、僕の今の気持ちと重なった。







end

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