Novel

□とりかえっこ
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「雲雀さん、どうしてオレに嘘吐いたの?」


地べたに這い蹲る雲雀を足蹴りにしながら沢田は低い声で言い放った。
ごほごほと咳をしながら血を吐く彼を誰が並盛最強の雲雀恭弥だと信じるだろうか?
尚も沢田はがしがしと人形の様な瞳で雲雀を蹴る。


「雲雀さんはオレのモノだよね?なのになんで嘘吐いたの?」


「つ、なよっ…ごほっ!!」


大量の血を吐き出しながらはあはあと肩を揺らしながら息を乱す姿は誰が見ても哀れとしか言い様が無かった。
あの雲雀を此処まで追い詰められるのは世の中広しと言えど沢田唯一人だけだろう。
精神的にも肉体的にも雲雀を沢田は追い詰めた。


「その腕はオレを抱きしめる為にあるんだよねっ!?」

「その声帯はオレの名前を呼ぶ為にあるんだよねっ!?」

「その瞳はオレだけを見る為にあるんだよねっ!?」

「その手はオレだけを愛撫する為にあるんだよねっ!?」

「その脚はオレの所にくる為にあるんだよねっ!?」

「その唇はオレだけに口付ける為にあるんだよねっ!?」


なのになのに!!と沢田は狂ったように雲雀を蹴り続ける。
愛してるのにオレは雲雀さんしか見てないのに!!


「オレは雲雀さんしか要らないのに!!」


雲雀さんはオレ以外を求めるの!?


「許さないっ、そんなの絶対に許さないんだからねっ!!」


何処から取り出したのかキラリと輝くナイフを自分の腕に当て刹那、腕から鮮血が溢れ出す。
白い腕に赤が映えて綺麗だな、なんて沢田はうっとりと思いながら雲雀の腕を同じように切る。
少し深く行き過ぎたのか血が大量に出るが気にしないと言った風に己の血と雲雀の血を混ぜ合わせた。


「ほら、これで一緒だよ?雲雀さんはオレのモノだから血一滴だって誰にも渡さない!」


「っつぅ!つ、なよし…っ!」


「ねぇ、とりかえっこしましょ、雲雀さん?」

可愛らしく言っているが内容はとてもえげつなかった。
ようは雲雀の何かと沢田の何かをとりかえっこするのだ。


「何にしましょうか?オレはね、これが良いと思うんですよ」


トントンと指で自分の心臓を指差して雲雀は絶句した。
とりかえっこだから即ち…―――。


「雲雀さんの心臓がオレの心臓として動くのって凄い幸せだと思いませんか?」


雲雀さんも嬉しいですよね?
だってオレを愛してるんだから!!


「つな、よし…なんで…っ!?」

枯れた声で雲雀が言えば沢田はニコリと笑顔で



「貴方を愛してるから」


言うと同時にナイフを雲雀の胸へと刺した。
鮮血の雨が降り注ぐ中で沢田は唯嬉しそうに微笑んでいた。



とりかえっこ



(元はと言えば雲雀さんが悪いんですよ?)

(オレ以外に現(うつつ)を抜かしてしまったのだから。)

(大好きで大嫌いな貴方へ。)

(貴方の全ては俺の為にあるのだから、余所見なんてしないで下さいね?)

(貴方を愛おしく想うが余り、)

(傷付けてしまうから―――。)


(もう、遅いですけどね)


(その囁きと同時に愛しい雲雀さんの中から取り出した心の臓に口付けを落とした。)


(赤と生臭さに塗れた部屋でオレは一体何を手に入れたのだろうか?)


(答えなんて誰も知らない。)



―END―


(本当は答えなんて無いのかもね?)


(ページの外で躯の彼が囁いた。)

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