□結い遊び
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「ただいまー」


いつもより少し上機嫌な声で八戒は言った。

今日は市場の特売日だった。
もはや主夫と言ってもおかしくはない八戒がそれを見逃すはずもなく、危機として出向いたのが数十分前。結果、大きな紙袋を抱えながら帰宅した八戒は建て付けの悪いドアを開けた。


「…三蔵たち、来てるんですかね」


玄関に綺麗に並べられた草履と靴。それは容易に三蔵と悟空のものであると判別できた。
今日は三蔵たちが来る予定はなかったような…と思い返して八戒はかぶりをふる。あの2人がいきなりやってくることなんてめずらしくもないのだから。

八戒も中にはいり奥へと進んでいくとすぐに聞き慣れた喧騒が聞こえてきた。


「このバカ猿バカ猿バカ猿バカ猿!!」
「エロ河童エロ河童エロ河童エロ河童!!」


何が発端かは知らないが、幼稚なレベルで悟浄と悟空が言い争っていた。仲が良い証拠だと優しい目線で考えていると、その2人の後ろで不機嫌そうに顔をしかめている三蔵の姿。

これはそろそろ限界ですね。

八戒がそう思った刹那、スパァーンと軽快な音が鳴り喧しさは消えた。

そこでようやく八戒はきちんと顔を出した。


「ただいま帰りました。三蔵、物は壊さないように気をつけてくださいね」
「ふん。河童のなら別にいいだろ」
「八戒さん?第一声がそれってどーよ。ってか三蔵もよくねぇっての!」


これはコントか?と思うような会話。それもまあいつものこと。
頭を抑えて立ち上がる悟浄の姿がなんだかおかしい。だが三蔵も八戒も深くは突っ込まなかった。


「よく毎回毎回飽きませんね。で、今回の原因は一体なんなんですか?」
「それはこの猿が…」
「悟浄が悪いんだからな!」


悟空が涙目で言い返した。ハリセンの衝撃はまだ根深く残っているらしい。
こんな言い争いもしょっちゅうで、このままではまた先程と同じ状況になるのは明らかだ。だから八戒はとりあえず荷物をテーブルの上において話題を変えようとした。


「それにしても、悟空の髪はいつも綺麗に結ってありますよね。自分でやってるんですか?」
「ん?」


悟浄に掴みかかりかけていた悟空が八戒のほうへ振り返る。そのときに長い大地色の髪が尻尾のようにふわりと揺れた。
その髪の根元はたしかに綺麗に、白いリボンでひとつにまとめられている。

悟空はそれを前に流すと、指先で弄りながら元気に言った。


「これは、いつも三蔵がやってくれてるんだ!」
「…へ?」


その言葉に驚いたのは、聞いた八戒だけでなく悟浄もだった。
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