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□2人だけで出かけようか?
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俺たちがついたときには、もうゲーセンはとっくに始まっている時間だった。
さすがはゲーセンとでも言うべきか。もちろん休日と比べれば劣るけど、平日にしてはかなり賑わっていた。
「…で、ここで何をするんだ」
「遊ぶに決まってんじゃん」
三蔵は本当にこういうとこに来たことがないらしい。ゲーセン経験のない高校生ってめずらしいよな。俺はいつも梛托や、悟浄と八戒と一緒に来てたから尚更めずらしく感じる。
ここはやっぱ、俺がゲーセンの楽しさを教えてやらなくちゃ!
「ゲーセンっていっぱいやることあるんだ!格闘ゲームもあるし、ゾンビ撃ちまくるのとか、太鼓叩くやつとかもあるし。メダルゲームもけっこうハマるしな!定番はやっぱり、クレーンゲームとUFOキャッチャーかな」
「…とりあえずまわってみるか」
「おうっ!」
興味をそそられた、という感じはしないけど、それでも「つまらなそうだから嫌だ」とか言われなくて一先ず安心。
奥のほうに行くと、とあるUFOキャッチャーが俺の目にとまった。
「あっ」
「どうかしたか」
「あれ、可愛いなって思ってさ」
俺が指差したのは、口のまわりと腹が白くなっている茶色いクマのぬいぐるみだった。つぶらな瞳と背中のファスナーが特徴な愛らしいデザイン。しかも全長80センチくらいというけっこうな大きさのもの。
「…女か、てめぇは」
「えーっ!だって可愛いんだから仕方ないじゃん!俺やろっと」
そう言うや否や、俺はその台に行って200円を入れた。この台は200円で1回、500円で3回できるらしい。前方が全て穴になっているから、前に倒せば簡単に落ちてくるはずだ。
俺は狙いを定めてまずは左に、そして後ろにキャッチャーを動かす。そこでちょうどよさそうなところで回転を止めるとキャッチャーは下がり、首と胴体の境目のところを挟んだ。キャッチャーが上がると同時にクマも上がる。
…しかしそれで済むわけがない。途中でキャッチャーから滑り落ち、横へと倒れただけとなった。
「あー…」
「それは倒せばもらえるのか?」
「落とせばもらえるの!今のすっげえ惜しかったよな。もう一回…」
そこからは「もう一回」の繰り返しだった。何度も何度もやって、何度も何度も失敗に終わる。進展は、ない。気づいたら1800円が消えていた。
これがよくある『UFOキャッチャーの罠』だ。こんなに恐ろしいものは他にない。
「うーん、なかなかとれない…」
「普通に買った方が安いんじゃねえのか」
「いや、これは大きいから安くても3000円はするからあと1200円は大丈夫!」
「そう言って結局とれねえで無駄金遣うんだろうが」
「う…」
ごもっともな意見にちょっとたじろぐ。するとその時、今までずっと傍観態勢だった三蔵が動いた。俺と位置を交換して金をいれている。
「このぐらい簡単だろうが。とってやる」
「え!?いや、初心者には無理だって!難しいんだぞこれ!」
ゴトッ
「……『ゴトッ』?」
不意に聞こえたそんな音。その音がなんなのかわからないでいると、いつのまにか三蔵がクマのぬいぐるみを抱えていた。
「なんでこんな簡単なモンとれねえんだ」
「ええええっ!?一発!?三蔵すげえ!!」
「俺に不可能はない」
相変わらずえらそうだけど、それでもすごいことに変わりはない。ただ、今までの俺の1800円は一体なんだったのかと思うけど。
そしてクマは三蔵の手を離れ、俺へとわたった。
「ありがとな三蔵!大事にする!」
「ふん。………おい」
「え?何?」
「なぜ開ける」
俺の手元は、クマの背中のファスナーを開けていた。中は白地に水色の水玉になっている。
「だって開けたくなるじゃん」
「そういうものか」
「うん」
訝しげに見つめる三蔵の前で、俺は黙ってファスナーをしめた。