World End
□第14話 「誕生と覚醒」
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穏やかな風の吹く梅香院の庭先を、大きなお腹を大事そうにさすりながら、艶やかな長い黒髪の女性がゆっくりと歩いている。
「サキ!」
背後からの自分を呼ぶ声に、女性はゆったりとした歩みを止めた。
「尚燦」
振り返り、にこりと微笑んで声の主を見れば、普段の威厳に満ちた姿とは対照的に、どこか慌てた様子で走り寄って来る、梅香院住職の姿。
「サキ…外に出て大丈夫なのか?」
心配気な表情を隠しもせず、そっと自分の背に手を当てる夫に、くすりと笑みを零して、女性─サキは穏やかに頷いた。
「大丈夫よ。今日は調子がいいの」
尚燦がここまで心配するのには理由がある。
サキの懐妊後の経過は思わしくなく、何度も切迫早産の危険に見まわれ、一時は医者から、母体を助けたければ子供は諦めるように、とまで言われていた。
しかし、サキは頑なに産む事を諦めず、その強い精神力と、子供の生命力のお蔭か、どうにか臨月まで持ちこたえたのである。
「そうか…。
でも、暖かいとはいえ、まだ二月だ。風が出てくる前に中に入ろう」
「ええ。…そう言えば、尚燦」
「ん?」
手を取って隣を歩く、頭一つ分背の高い夫を見上げながら、サキは悪戯っ子のような笑みを向ける。
「この子の名前を考えたの」
愛おしそうにお腹を撫でるサキに、尚燦は目を細め、立ち止まり膝を付いて、そっとお腹に頬を寄せた。
「何て?」
目を閉じて、我が子の鼓動に耳を傾ける夫の髪を撫で梳きながら、サキは歌うように呟く。
「尚護。この子の名前は尚護よ」
第14話 「誕生と覚醒」
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