パラレル-

□【He goes to a place with〜】
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1.


「…あー萎える」

下肢だけ剥いて性急に身体を繋げ合い、衝撃と嬌声を噛み殺して真っ白に脳味噌を弾かせる。
吐精の余韻を味わう間もなく体内からすぐに楔が引き抜かれ、溜息をつきながら最初に放たれた言葉がそれだった。

「……脳味噌イカレてんじゃねぇか、てめぇ。人ん中ぶちまけやがったコレは何だっつーんだよ」
「生理現象の残滓?溜まったモンは出さなきゃ身体に悪ィって必要に迫られて出してるけど、てめぇが相手じゃな…気分は排尿してんのと一緒だ」
「…排尿気分が嫌なら他人のケツ使って無ぇで一人でズリこきゃいいだろうが。どうしても穴に突っ込みてぇってんなら、島降りて女買ったついでにその手の器具でも買ってきな」
「それ使って盛りのついた猿みてぇに腰振ってヨがってろって?アホ言え、んなモン買ったところで隠す場所なんざどこにも無ぇし、吐き出すだけなら手やてめぇのケツの方がまだマシだ。大体てめぇだって毎回きっちりイってんだ、何だかんだ言って楽しんでるくせに、白けた面していかにも我慢してますって態度ばっか取られたんじゃ、下半身はすっきりしても胸くそ悪いんだよ。少しはそれらしく雰囲気出してヨがってみろっつーんだ」

床に転がっていたボトムを頭目掛けて投げ付けられ、眉を顰めてぶつかる前に掴み取る。
睨み見下ろしてくる男のアイスブルーの瞳を睨み返して、ゾロは鼻で嗤って言った。

「…てめぇの都合のいい時に、適当に解して突っ込むだけのセックスに、どう雰囲気出せって?ラブコックが聞いて呆れるぜ。声を出させたけりゃ、出さずにいられなくなるようにヨがり狂わせてみな。時間も技巧も凝らす気なんざ端から無ぇくせに、人にイチャもんつけんのは筋違いだ」
「時間と技巧、ね……へぇ?あんた、女を抱くみたいに俺に抱かれたいわけ」
「っ…誰もんなこと言ってねぇ。てめぇがあんまりにも下手くそ過ぎて、その上アホくせぇこと抜かしやがるから正論言ったまでだ」

意地悪く嗤って顎へと伸びてきた男の指を、思い切り振り払う。
呆れて仕方ないのだと侮蔑を匂わせて言い捨てると、男の顔から一切の表情が消えた。

「―――要らねぇことばかりベラベラ喋る口だな。つくづく可愛気の無ぇ野郎だよ、てめぇは」

吐き捨てるようにそう言って部屋から男が出て行く。
ドアの閉まる音を背で聞きながら、ゾロは床を汚す白い蜜を見下ろした。

『大体てめぇだって毎回きっちりイってんだ、何だかんだ言って楽しんでるくせに、白けた面していかにも我慢してますって態度ばっか取られたんじゃ、下半身はすっきりしても胸くそ悪いんだよ。少しはそれらしく雰囲気出してヨがってみろっつーんだ』

ついさっき言い捨てられた言葉が、残響のようにこだまする。
ゾロは噛み締め過ぎて歯型のついた指に舌を這わせると、微かに滲む血と唾液に濡れた指を、先程まで怒張を咥え込まされていた場所へと突っ込んだ。
おざなりに蜜を掻き出せば、トロトロと溢れ出たそれが更に床を白く汚す。
白い小さな水溜りのようになった足元を、まるでチビリでもしたようだと喉を震わせて声もなく嗤いながら、ゾロは裸足の足の裏で踏み躙り、塗り込めるように床に擦り付けた。
グチャリと冷たく汚れる足が酷く不快だった。
鼻につく饐えた臭いに胃が震え、底知れぬ嫌悪と吐き気が込み上げてくる。
いつものことだ。
あの男は、手荒く突っ込むだけ突っ込んで吐き出したら、後はもう用は無いのだというように、呼吸が整うまでの僅かな間ですら傍らに留まりもせずに出て行くか、そうでなければ繰言のような悪態を吐きつけて去っていく。
中で出さぬようにと気づかうこともしなければ、処理を手伝うということもしない。
わかっていても毎回殺伐とした気分になるのは、あの男の他人への遂げられない想いと欲の捌け口に自分の身体を使われる不快感が拭えず、もしもその相手と肌を合わせることが叶ったとしたら、その相手のことを壊れ物のように大事に抱き慈しむだろう男の姿が容易く想像できていつまでも消えないからだった。
あの男は、クルーであり航海士でもある勝気で聡明な少女のことを想っている。
それが愛情なのか庇護欲なのか、はたまた奴が言うところの騎士道精神からくるものなのかは知らないが、凪いだ海のような穏やかな眼差しと想いを一心に注いで大事に守っていることをゾロは知っていた。
本当に触れたい相手は、大事すぎて手が出せない。
傲慢で臆病な綺麗ごとなのだ、そんなのは。
捌け口を求めて勝手に突っ込んできておいて、毎度男の尻で抜く不毛さを隠しもせずに眉を顰め、悪態を吐く、その傲慢。





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