パラレル-

□Together with him and 〜
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【Together with him and her small wish】



『七夕祭り?』
「ああ。今年の七夕は金曜だろ?週末なら騒ぐのに丁度いいってんで、役場と商工会主催でやってみるかって話になったんだと。農協と郵便局は協賛。村営のデカイ駐車場あるだろ、あそこと、その近くにある小学校のグラウンド使って結構盛大にやるらしい。…っつってもまあ村の祭りだから、ビアガーデンの規模が多少デカくなったくらいのもんだろうけどな。食い物の屋台はテキ屋じゃなくて農協の女性部と青年部の方で出すっつってたし、くじ引き大会の景品は商工会加盟店からのよりすぐりの品だそうだ。九時にちょっとだけ花火上げて、後は十一時過ぎ位まで天の川見ながら酒飲んで解散」
『へぇ…楽しそうだな。ちなみに雨が降ったら?』
「小雨決行、酷かったら土曜に延期。土曜も雨が止まないようなら、村民ホールで大宴会だ」
『…七夕より酒飲み重視か。花より団子なノリだな、それ』

受話器の向こうで、密やかに笑う気配がする。
窓辺にもたれて汗をかく缶ビールを一口煽りながら、ゾロもニヤリと笑って言った。

「村には俺みてぇな酒飲みが多いからな。何かにかこつけて飲みてぇわけだ」
『あんたホントに飲兵衛だもんな。明後日の祭り、今から楽しみで仕方ねぇんじゃねぇ?』
「わかるか?」
『そんな声してる。無駄と知りつつ一応言うけど、あんまり飲みすぎないでね、郵便屋さん』
「…気になるなら、見張ってりゃいい」
『え?』
「酒飲めるし、一応協賛だから局員は顔出しくらいはしとけって言われてるから祭り行くけどな、元々適当に飲んだらすぐお前んトコ行くつもりだったんだ。一緒に祭り行けばお前は俺を見張っていられるし、その分長く一緒に居られるだろ」
『それ。もしかしてデートしようって誘ってる?』
「…別にんなんじゃねぇけど。女どもが浴衣着るっつってたし、目の保養になるんじゃね?」
「そりゃ綺麗だろうけど……あんたも着るの?浴衣』
「着ることになんだろうな。ナミが、局員全員で浴衣着て祭りに繰り出すぞっつって張り切ってたから」
『そう、ナミさんが……』

思案げに呟いたきり、ふいに受話器の向こうに沈黙が降りた。
暫く息を潜めて待ってみるが、相手が話し出す気配は無い。
ゾロは、窓から入り込む風のために自分に向かって流れてくる蚊取り線香の煙を払っていた手を止め、怪訝に眉を顰めながらサンジの名を呼んでみた。

「……サンジ?」
『うん……。ゾロ?』
「ん?」
『浴衣着たナミさん、綺麗だろうね』
「まあ、似合わなくはねぇんじゃねぇの」
『綺麗だよ、絶対。華があれば酒の席も盛り上がるだろうし……だからね、明後日はナミさんたちと、ゆっくり楽しんでくるといいよ』
「…お前は行かねぇのか」
『土曜の分の仕込みがあるし、それに……俺はたぶん行かない方がいい』
「……何…どういう意味だ、それ」
『―――秘密』
「は…っ?」
『おやすみ、俺の可愛い郵便屋さん』

絶句して思わず窓辺から身を起こしたゾロに構わず、密やかな笑みを滲ませた声がそう囁いて、唐突にプツリと通話が切れた。

「なっ、サンジ…っ!?」

ギョッと頬を引き攣らせながら、ゾロはすぐに電話を掛けなおした。
あいつの言う意味も、急に電話を切られてしまった理由もさっぱりわからない。
まだ話し足りない。声を聞き足りない。
何より自分はまだ、あいつにおやすみと言っていない。
それなのに、線を抜いてでもいるのか、電話は一向に繋がらない。

「……何で……」

何度掛けなおしてもただ無機質な音のみを返してくる受話器を見つめて、ゾロは茫然と呟いた。












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