パラレル-

□アオイロ・コイイロ
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可愛くない。似合わない。
いつだって真っ直ぐに澄んだ眼で相手を見据えるあの男に、いつまでもあんな眼をしていて欲しくない。
けれどもあの眼に宿る飢えを満たしてやれるのは、きっと自分でもたしぎでも他の誰でもなく、あの男が心を奪われている唯一の人だけ。
あの男を抱き締めて癒してあげられるのも、その人だけに許されたことなのだ。
教えてやらなければ、とナミは唇を引き結んだ。
お節介と言われようが、後であの男にバレて怒られようが、今の状態のあの男を指を咥えて見ているよりは遥かにマシだ。
ナミは腹を決めて、心の中で「ごめん」と合掌しながら、徐に男の携帯のアドレス帳を開いた。


どんなに大学内に名前が知られていようと、モテはやされようと、そしてあわよくばお近づきにと擦り寄られようと、警戒心が強い上に携帯を弄る趣味も無ければ使いこなせもしない男の登録している件数なんてたかが知れているもので、グループ分けもろくにせずに登録してあるのは僅か十数人ほど、その内女の名前は無理やりに登録した自分と必要に迫られて登録したたしぎだけで、あとは全員自分もよく知っている男友達の名前だった。
ザッと名前を確かめて、変ね…とナミは口元に指をあてた。
あの男には長く付き合っている恋人が居る。
それはあの男の幼馴染で、地元のレストランでコックをしているのだという。
相手の名前だとか付き合ってどれくらいになるのかだとかは表立って聞いたことは無かったけれど、3月に実家に帰省して2日程して戻ってきたときに項に薄く付いていたキスマークを仰天しつつ揶揄ったとき、ポロリと「付き合ってる奴がいる」と一言口を滑らせた男の顔は、バツが悪そうに赤くなりながらもどこか幸せそうで、だから自分も含めてその場に居た男に近しい仲間たちは深く追求はせず、ただ決して他言はすまいと申し合わせたように目配せし合って口を閉じたのだった。
長く付き合っている恋人の番号を登録していないはずは無いし、登録してあるならば、それは自分に見覚えの無い名前のはずだ。
どういうことだろうと怪訝に思いながら、念のためと別のグループのページを順に開いてみる内に、ナミは「あっ」と小さく声を上げた。
さっと手で口を塞いで、ただ一人の名しか登録されていないその画面を、見覚えの無いその名をまじまじと見つめる。
伏せるわけでも特別何か装飾してあるわけでもないけれど、それでもわざと一人だけ別に登録してあることの意味など考えるまでも無くナミにもわかって。
ナミは口元を引き締めて携帯を握り締めると、渡り廊下の開け放してある扉から外へと出てその人物へと電話をかけた。








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