海賊-

□嘘つきロージー
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【嘘つきロージー】




「そんな見え透いた嘘吐いて、楽しいか?」

キショク悪ィ、キチガイと罵倒されるか。
はたまた、怖気を震わせて嫌悪を顕に睨まれるか。
間違ってもキャー嬉しいアリガトアタシもよなんて歓迎されるとは、そりゃ天地が引っくり返ったって太陽が落っこちてきたって有り得ねぇっつー前提で、そういう覚悟で言ったわけだが。
そうか、こう来たか、と俺はまるで予期せぬ化学反応に遭遇したカガクシャみてぇにふぅんと軽く眼を見張りながら、呆れたように微かに眉を顰めつつも相変わらず真っ直ぐ自分を見つめてくる男の翡翠色の眼をしげしげと眺めた。
仲間に、それも顔を突き合わせれば陳腐な小競り合いばかりしているいけ好か無ぇヤローに愛の告白って奴をされたというのに、その獣みてぇに澄んだ眼には、僅かな嫌悪も怒りも戸惑いすらも浮かんでいない。
もしかして脈アリ?なんて、そんなことはさすがに短絡すぎて自惚れでも思わねぇが、そのあまりの反応の薄さに、こいつ言われ慣れてんのかな?とはチラッと思った。
こいつ、俺には敵わねぇけど、そんじょそこらじゃちょっとお眼にかかれねぇくらいには綺麗な面してやがるし。
見るからに粗野で男くせぇくせして、時々開いた口が塞がらねぇままポカンと見惚れちまうくらい妙に色気振りまきやがるし。
しかもやっかいなことに、そうしてこいつが無意識に垂れ流したフェロモンに老若男女問わねぇばかりか動物までも惹きつけられて、否応無しに引き込まれて、憧憬とか愛情とか焦燥とかそういうモン全部一緒くたにぐじゃぐじゃに綯い交ぜになって惚れ込まずには居られなくなんだ。
好きだなんてチープな言葉じゃ追いつかねえくらい、髪の毛の一本から足の指の爪の一欠けらまで誰にも渡して堪るかよと思い詰めるくらい、この俺が鮮やかに深く嵌り込んじまったみてぇに。

「嘘みたいなホントってのも、あるらしいぜ?」

新しい煙草に火をつけて、深く紫煙を吸い込む。
したり顔で囁いてニッと笑った自分の顔は、きっとさぞかしイヤラシく、小賢しいばかりに歪んでいたに違いない。
表情を消し、不快気に眉間の皺を深くする男を観察しながら、他人事のように脳味噌の裏っ側でそう思った。

「……悪ィが、冗談に付き合ってるほど俺は暇じゃねぇ。そういうことは、ナミに言え」

「生憎、冗談でヤローに告るほど俺も暇じゃねぇんだなこれが」
「なら本気だってのか?ハッ、女に相手にされなさ過ぎてついにトチ狂ったか、クソコック」
「さあどうだろう?とりあえず、俺のこの世の全ての女性に対する愛は永久不滅だけどな」
「…てめえの言葉は嘘くさ過ぎて、誠意を感じねぇ」

低く吐き捨て、これ以上の問答は無用とばかりに、男が立ち塞がってた俺の横をあっさりとすり抜けていく。
ほんの微かなおこぼれだってくれてやるもんかというように、ご丁寧にも1ミリの接触も許さず、体温を感じる間もないほど素早く。

「嘘、ね……」

後で閉められるドアの音を聞きながら、肺に流れ込んだキツイ紫煙を苦く噛み殺した。

薄汚れた床に落ちた視線に、堪えきれず、喉から震えるような嗤いが零れた。



――信じられねぇのも嘘だと思いてぇのも、お互い様だっつーの。



聞かせる相手の居ない独言は、腹の中ですぐに歪んで立ち消える。
漫然と、冷たく硬化した細胞が、言葉が、想いが死滅していく悲哀を思った。








END

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