海賊-

□優しすぎる、嘘に
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【優しすぎる、嘘に】    




なあ、知ってたか?

全ての光線を一様に反射することによって眼に感じられるのが“白”なのと同じように

痛い辛い寂しい苦しい哀しい気持ちと

嬉しい楽しいって気持ち全部が混ざり合ったら

やっぱり白になるんだよ。

澱んで暗い黒になるんじゃなく

仄暗い泥濘色になるのでもなく

混じりけの無いまっさらな純白になんだ。

あんたがどれだけ血塗れても

あんたのココロは汚れも腐りもしねぇ。

あんたがあんたである限り

あんたのそのとてつもなくデカくて獰猛で真摯な野望が息づく限り

あんたはどこまでもひたすらに

綺麗な生き物なんだよ。



いつかの晩の寝入り端、仄明るいランプの光でその髪を明るく透かしながら、子守唄でも聴かせる調子で奴はそう言って笑った。
まるで眩しいものでも見るようなその眼差しに、眩しいのはこちらの方だと不思議に思いながら光に透ける金色を眺め、瞼へと落とされた口付けに促されるまま眼を閉じたその晩、自分は初めて奴の腕の中で夢も見ずに熟睡した。
無自覚に、無防備に、急所という急所を全て晒して。
それでも身体に纏ったシーツ一枚が上等な毛布にでもなったような、安堵にも似た温かさと心地よさを腹の奥底に覚えながら深い眠りを貪った。
それからだ。奴の傍でだけ熟睡できるようになったのは。


なあ。
頭から血塗れて生臭い匂いを纏って、幾重にもこびり付いた血糊と脂は、いくら洗い落としたって消えやしねぇんだよ。
後悔や懺悔など微塵も有りはしなくても、自分が決してまっさらでも綺麗でも無いことくらい知ってる。
綺麗で、温かくて、穏やかで…自分がそんなものとはむしろ最も遠い人間なのだと言うことくらい、誰よりも自覚してる。
それでもお前はいつも無造作に、その白くて冷たい掌で慰撫するように触れてくる。
どこまでも全部受け止めて、どこまでも優しい嘘を吐きながら、その嘘に何一つ嘘を滲ませず、潔いほどに躊躇も無く自分の眼を覗き込んできて笑う。
そんなお前をどうして突き放せただろう。
どうして宝物のように大事に思わずにいられただろう。
一緒に汚れても構わないと、全身全霊で抱き包んでくれるお前を。






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