海賊-

□シガレット・ビター
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プロローグ


「ごちそうさま、サンジ君。とってもおいしかったわ」
「お口に合って光栄ですv紅茶でもどうですか?」
「ん〜、今晩は遠慮しとくわ。じゃあね」

にっこりと笑ってナミはキッチンを後にする。
綺麗に星の見える夜空を見上げて、明日も晴れそうだ、と思う。
日誌を書こうか、それとも先にお風呂に入ろうかと考えながら階段を下りていると、後ろから、ツン、と服の裾を引っ張られた。
ぎょっとして振り向くと、こちらに少し屈み込むように上体を傾けたゾロの顔と、ごく間近でお見合いした。
咄嗟に息を飲み込んで固まったナミに頓着せず、ゾロが再びツンツン、と裾を引っ張ってきた。

「ナミ。」

呼び掛けられてハッと我に返る。

「…あ、あんた、無駄に気配殺して近づかないでっていつも言ってるでしょっ!びっくりするじゃない!」
「…別に意識してやってるわけじゃねぇよ。癖ンなってんだろ…たぶん」

律儀に返されて、ナミはため息をついた。

「……で?私に何か用あったんでしょ?何?」
「ああ。あとどれ位で次の島に着く?」
「このまま順調に行けば、2日後には着くと思うけど。……何、あんた、何か買いたいものでもあるの?」

珍しい、と思って尋ねると。

「酒が無ぇ。」

きっぱりとゾロが答えた。

「はあ?お酒ならまだ残ってるはずでしょ?」
「……いきなり、暫く禁酒しろだとか言い出して、コックの野郎が酒全部どっかに隠しやがったんだよ」

苦り切った表情になるゾロを眺めながら、深くこの話題を突き詰めるのはやめよう、とナミは直感的にそう思った。
女好きコックのくせにゾロへの迸る愛を垂れ流すサンジのことだ、どうせ「お前の身体が心配だ・か・らv」とか言って恩着せがましく俺はお前を心配してるんだぜオーラを撒き散らすつもりか、はたまた酒を寄越せとごねるゾロとの小競り合い(またの名を愛のスキンシップ)をして構って貰いたいだけなのか、腹黒いところで、酒を強請るゾロに自分にとって都合のいい条件でも持ちかける気か。
ともかく、突き詰めていくと、惚気られるか呆れるか地に沈めたくなるかのいずれかに違いないので、ナミは非常に適当に、ふぅん、と相槌を打った。

「……ま、食料はサンジ君の管轄だしね。いい機会かもね」
「……何だよ…お前もコックの味方かよ」

ムッと拗ねたように唇を尖らせるゾロを見て、ナミは、うっ、と咄嗟に鼻の下を抑えた。

(か……可愛い顔してんじゃないわよっ!)

無駄に母性本能を擽られてしまった。
気を取り直したナミは、ふと気づいた。

「そういえば……もうすぐバレンタインねぇゾロv」
魔女の笑みを浮かべてゾロの顔を覗き込むと、
「あ?……何だそれ」
「えっ?あんたバレンタイン知らないの!?」
「興味ねぇ。」

これまたきっぱりとゾロが言い切った。

「興味無いってあんた……恋人たちにとって重大なイベントでしょうが。バレンタイン疎かにしたら、サンジ君泣くかもよ〜?」
「ああ?……そりゃ、うぜえな。どうすりゃいいんだ?」

眉を顰めて尋ねてくるゾロに、ナミはバレンタインの概要を真虚交えながら懇切丁寧に教えてやった。
話を聞いた後、考え込むように口元に拳をあてるゾロに背を向け、ナミはニヤリとほくそ笑んだ。

(……面白く、なりそうねv)

2日後の寄航が、とても待ちどおしくなった。


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