海賊-

□空の切れ間に僕たちは
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……クソ痛ぇんですけど。

額に響いた結構な衝撃に、ピキンと思わずこめかみに青筋が浮かんだ。
人が心配して手当てしてやってるって言うのに、なんて言おうものなら、そんなもん頼んじゃいねぇと突っぱねるんだろうけれど。
そんな可愛くない反応しかこいつがしないなんてよくわかっていることだけど、でも自分が頭突きを食らわされる覚えなどはっきり言って無いと思う。
一発くらい殴っていいですかと小さな丸い頭を胡乱に睨みつけたその時、ふいに屈んでいた身を起したゾロが自分の胸元へとその背と頭をポスンと預けてきた。

「…っ……」

自発的にくっついてくるなんてことを滅多にしないこの男の温い体温に虚を突かれて、サンジは思わず憎々しさも忘れて無意識にその身を抱きとめてしまった。
腕の中に収まった男はちらりと自分を見上げると、首元に猫の様に頭を摺り寄せ、掌を捕らえて弄んでくる。
甘えてジャレつくような珍しいそのしぐさに柄にも無く鼓動を高鳴らせて見守っていると、掌に鼻先を寄せたゾロが小さくぽつりと呟いた。

「……危ねぇって本能でわかってても、誰に何て言われても、傷つこうが血ィ流そうが突き進んでいくような生き方しか俺にはできねぇんだよ。傷を負うのを怖がって一々前に進むのを止まってたら、強くなんざなれねぇからな…」

忠告を聞いていないわけではなく、心配されていることを自覚していないわけでもなく、それでも止まれ無いのはそういう生き方をずっとしてきたからなのだ、と。

それが先ほどの自分の言った嫌味に対する答えなのだと気づいたら、甘く騒いでいた鼓動は潮が退いていく様に鎮まった。
代わりに胸に迫ってくるのは、切なさだとか虚しさだとか後悔だとかを全部一緒くたにした胸苦しさだ。
或いは、救いようも無い愛しさだったのかもしれないけれど。

密やかに零された言葉の意味を、自分はきっと誰よりも身に沁みて知っている。
こいつがそういう無骨で不器用で、どうしようもなく無鉄砲でまっすぐな生き方しかできないことを知っている。
それで野望半ばに野垂れ死んだとしても少しもこいつは後悔なんてしないんだってことも、そのときに残される自分のことなんて一切思い浮かびもしないんだろうということも、頭にくるくらいよくわかっている。
それでもそういうこいつの生き様に、自分は眼を奪われて、意識を囚われて、心も身体も堕ちたのだから、この先どんな未来が待っていたとしても自分は腹を括って飲み込んでいくより他に無いのかもしれない。

サンジは絆創膏を巻いてやった指先に、そっと唇を寄せて呟いた。

「……それでもさ、どうしても言わずにはいられねぇんだよな。頼むから無茶するなって。こんな些細なことで傷つくって血ィ流して、痛ぇとか言ってんじゃねぇよって。……無意味なのかもしれねぇけどさ」




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